共和党のベイナー下院議長が9月25日、突然の辞任を表明したことを受け、米財政問題の協議期限が12月11日に設定された。米議会はそれまでの間、紆余曲折が予想され、経済や市場の不透明感が強まるだろう。そうしたなか、連邦準備制度理事会(FRB)が、12月15〜16日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げに踏み切れるか、世界が注目している。

共和党強硬派は、財政赤字の上限遵守や、民間妊娠中絶支援機関に対する米連邦政府の補助金打ち切りを予算成立の条件として徹底的に闘うことを表明している。したがって、ベイナー氏が10月末で議長を辞した後、共和党の誰が新下院議長に選出されるかで、財政問題協議の行方は大きく変わる。

著名コラムニスト、マシュー・イグレシアス氏は、「ベイナー後の米下院は、共和党強硬派の瀬戸際戦術で日々政局が不安定だった初・中期の『ベイナー下院』と同じか、それ以上に不安定化する」と予想している。

強硬派を制御できない人物が下院議長に選ばれた場合、12月に連邦政府機関閉鎖があり得るが、ゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏などは、2年前のような政府機関閉鎖の可能性を50%と予測している。

ただ、実際に閉鎖になっても、米国経済全体に与える影響は、1週間当たり国内総生産(GDP)の0.2%程度に過ぎないとの試算もあり、あまり心配なさそうだ。

しかし、閉鎖で各種の公的な経済指標が発表できなくなり、「米国経済は利上げに耐えられるほど好調だ」との前提で動くFRBの手足を縛る可能性は残る。

また、より懸念されるのは、すでに世界経済失速などの恐怖におびえる市場心理や経済を、米政治の機能不全が冷やすことだ。米ポトマック・リサーチ・グループのチーフ政治ストラテジスト、グレッグ・バリエール氏は、「市場は不透明性を嫌って乱高下しているが、真の不透明性は12月に来る。11月下旬の感謝祭休暇明けに、市場は政治の動きを注視するだろう」と予測する。

また、米キャピタル・エコノミクスのポール・アッシュワース氏は、「議会の問題が国内の経済や金融市場に悪影響を与えれば、10月の利上げの可能性は消えるし、12月もFRBの動きが取れなくなることが考えられる」とする。

米レイモンド・ジェームズ・ファイナンシャルのチーフエコノミスト、スコット・ブラウン氏は、「今後の政局が、投資家がすでに直面している不透明さを悪化させる可能性がある。投資家はより過敏になり、政治の機能不全は実体経済よりも、金融市場に悪影響を及ぼすことになろう」と述べた。

ロイター通信の分析記事も、「議会が瀬戸際交渉に明け暮れれば、年末にかけて再び金融市場が混乱に陥る恐れがある」との見方を示している。


イエレン議長は財政問題を一蹴

このように、市場は米議会の問題解決能力をほとんど信用しておらず、その信頼の欠如が市場の不安定さを悪化させると懸念されている。そうした市場心理の悪化のなか、FRBは12月に利上げに踏み切れるのだろうか。

FRBは、今夏の中国リスク問題で揺れた市場に配慮し、9月利上げという大きなチャンスを見送った。公言している年内利上げを、財政問題で再び見送れば、その威信は失墜する。加えて、市場が利上げ延期を「米国経済に問題がある証拠」と捉え、パニックに陥る可能性を政治評論サイト『ポリティコ』が指摘している。

イエレンFRB議長は9月17日の会見で、「財政問題から政府機関閉鎖が起こっても、利上げ判断には何の影響もない」と断言。一方で、政治のドタバタ劇で米国経済の回復を妨げることがないよう、議会にやんわりと釘を刺している。

同議長は、FRBの利上げ判断に際し、すべての理想的な条件が揃っているとは限らないとし、「不透明さは、常に消えない」と述べた。これは、政治環境や経済環境がある程度不透明でも、利上げする可能性を示唆するものだ。

利上げはあらかじめ期限を決めて行うものではなく、データ次第だとしながらも、イエレン議長など米金融当局者は「年内利上げ」と時期予想を掲げている。たとえ市場が財政問題で動揺しても、年内利上げへのこだわりは、今のところ固いと思われる。

(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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