(写真=PIXTA)
超長期(20年)国債先物取引の商品性が大幅に見直されて2ヶ月が経過する。商品性見直しの影響と、その後の取引状況について確認する。
超長期国債先物取引は1988年7月に最初の取引が開始された。しかし、当時は現物の超長期国債が長期(10年)国債に比べて発行量がそれほど多くなく、流動性も低かったことなどから取引は低迷し、2002年9月に取引は停止された。その後、2003年10月から現物の超長期国債が毎月発行されるなどして発行量が増え、流動性も高くなってきたことなどから2014年4月に超長期国債先物取引は再開された。
再開当初は1日当り百億円前後の売買高もあり取引が活発になることが期待されたが、その後売買高は減少し、1年後の2015年4月にはほとんど取引が成立しなくなっていた。そこで、商品性が大幅に見直され、2015年7月6日より新しい超長期国債先物として取引が開始された(2015年12月限から新しい超長期国債先物取引となり、古い超長期国債先物取引は2015年9月限で終了)。商品内容見直しのポイントは主に3つある(図表1)。
1つ目は「標準物のクーポンレートを6%から3%へ変更」したことである。
標準物とは、先物が想定している架空の債券である。債券先物は最後に現物に交換することができるが、それ以前の先物期間中は実際には存在しない架空の債券(標準物)を想定して価格が変動している。超長期国債先物取引では、クーポン6%、期間20年の債券を想定していた。
これをクーポン3%、期間20年の債券を想定するように変更した。これによりヘッジや裁定取引の利便性が向上することなどが期待される。債券をヘッジする場合、できるだけ属性(クーポン・期間等)の近い債券でヘッジする方が良い。属性が異なる債券でヘッジすると価格変動率が異なるため、ヘッジ金額を調整する必要があるが、金額の調整幅が大きいとヘッジ精度が悪くなる。
現在の超長期金利は1%台であるが、クーポン6%の債券を想定するとヘッジ金額の調整額が大きくなってしまう。そこで、クーポン3%としてその差を小さくすることにより、ヘッジ金額の調整額を小さくすることができる。
2つ目は「受渡適格銘柄の残存年数を18年以上21年未満から19年3ヶ月・19年6ヶ月の20年国債に変更」したことである。
これは先物価格をより残存20年に近い現物債券に連動させることで、価格形成を適正にするための試みである。債券先物が現物に交換される際、現在のように実際の金利水準が標準物クーポンよりも大幅に低い状況では、最も期間の短い現物債券が受け渡される仕組みになっている。
つまり、これまでは期間18年の債券が受け渡されていた。そのため、先物価格は18年金利に強く連動するようになっていた。これが今回の見直しで期間20年により近い債券が受け渡されるため、今後は20年近辺の金利を意識して変動するようになる。現物金利は発行直後の20年近辺の金利が最も流動性が高いため、より適正な価格形成が期待される。
3つ目は「呼値の刻みを5銭から1銭に変更」したことである。
これまでは5銭毎に価格が変動していたが、価格の刻みが細かくなることでさらに緻密な指値が可能になり、これまで成立しなかった価格で取引が成立するようになる。そのため、価格形成がより精緻になり取引も活発になることが期待される。
どれも投資家ニーズを踏まえ、取引に参加しやすくなるための工夫がなされている。しかし、実際の売買高を見ると、取引は今のところ活発になっていない。商品内容見直し後の7月6日直後は百億円を超える売買高もあったが、その後数十億円程度に落ち着き、直近では取引が成立しない日も発生している(図表2)。現状ではまだ参加者が限られているようだ。
一方で、先物建玉は200億程度と、ある程度の規模を確保している。これらは限月交代時に次の限月に乗り換えられる可能性もあり、その際はある程度の売買高も期待される。ただし、限月交代時に乗り換えが進まず、建玉を減らす可能性もある。
2014年4月に取引が再開された古い超長期国債先物取引も、限月が交代する度に建玉を減らしてきた。次の限月交代は12月と考えられるが、今後はその際の取引状況なども注目される。
日銀による異次元の金融緩和が続いており、長期金利は動きにくい状況が続いている。中国の影響などで株価や為替が大きく変動した2015年8月19~31日の期間、長期国債先物取引は53銭しか動かなかった。
債券先物取引は投機などにも利用されるため、ボラティリティは高い方が好まれる。超長期国債先物は長期国債先物より期間が長いため、ボラティリティは高くなると考えられる。長期国債先物取引の価格が動きにくくなっている中、超長期国債先物が今後より活発に取引されることが期待される。
千田英明
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
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