(写真=PIXTA)
要約
株式市場の不安定な状態が続いている。背景には中国はじめ世界経済の減速懸念やアメリカの利上げ時期が依然として不透明なことがあろう。一部にはリーマンショックの再来を心配する声もある。
そこで、直近とリーマンショック時の株式市場の動向を比較したところ、いくつかの類似点が見付かった。危険を察知した一部の投資家の行動が現れているのかもしれない。
無論、これらの類似性は一部の状況証拠に過ぎず、他の指標ではリーマンショック時と異なる点も多い。現時点では近い将来に波乱相場に陥るとは思っていないが、米利上げなど何かをきっかけに波乱相場が訪れないとも限らない。過度な悲観は良い結果をもたらさないが、視界不良なだけに慎重姿勢も忘れずにいたい。
はじめに
◆分析の目的と分析方法
アベノミクス開始以降の日本株市場は大きく上昇し、今年6月には日経平均が1996年12月以来の2万1,000円に迫る場面もあった。しかし、その後は米国の利上げを巡る思惑や中国をはじめとする世界的な景気減速懸念から株を売る動きが加速し、9月29日には1万7,000円を下回った。
足元では中国経済に対する過度な懸念の後退や米利上げ時期の後ずれ期待などから1万8,000円台を回復したものの、リーマンショックのような波乱相場の再来を不安視する声も根強く残る。今後のヒントを得るため、足元の急落局面とリーマンショック時をファクター分析で比較した。
はじめに分析方法を説明する。ここでは、図1に示す分位分析という手法を用いた。具体的にはTOPIX500銘柄をある月のリターン(配当込み収益率)が高い順に並べ、上から100銘柄ずつ5つのグループに分ける。次に各グループの月初時点におけるPER(株価収益率)やROE(自己資本利益率)などの平均値と、500銘柄全体の平均値との差を求める。
例えば、リターン上位100銘柄の平均PERが500銘柄全体の平均PERより高ければ、その月のリターンが高かった銘柄群は相対的にPERが高かったことになる。下位100銘柄についても同様に求める。こうして最も買われた銘柄や最も売られた銘柄の特性を調べることで、投資家行動の軌跡を浮き彫りにすることが分析の目的だ。
なお、図3~図7は前述した「各月のリターン上位100銘柄または下位100銘柄と500銘柄全体の平均PER等の差」を累積したものなので、グラフの傾きが意味を持つ(グラフの水準自体は重要でない)。たとえば「高リターン・PER」のグラフが右上がりなら「リターン上位100銘柄はPERが相対的に高かった」ことを意味する。
誤解を招かぬよう念のため述べておくと、高リターン・PERのグラフが右上がりの状態を「買われた銘柄のPERが上がった」と捉えるのは間違いだ。値上がりした銘柄のPERが上がるのは当然で、それでは情報としての価値がほとんど無い。そうではなく、この分析は「買われた銘柄は、買われる前の時点で相対的にPERが高かった」ことを意味する。だからこそ、この分析によって投資家行動の軌跡を追うことができる。