株式市場は、夏場のパニック的な下げを経て、最近は比較的落ち着いた展開が続いている。特に注目されるのは、ひと頃に比べて市場の「中国アレルギー」が薄れている点だ。もっとも、中国経済は依然として回復の見通しが立っていないのも事実で、手放しで強気しにくいことも確か。そこで今回は、カブドットコム証券株式会社・投資情報室長の山田勉氏にインタビューし、「中国と世界経済」をテーマに語って頂いた。

――世界の株式市場は、ひと頃に比べて「中国アレルギー」が薄れているように見受けられます。実際、この秋口の相場を振り返りますと日経平均、ダウ平均とも下値には一定の抵抗を示していますが、山田さんはこの一連の状況をどのように見ておられますか?

この夏場から株価は約16%値下がりしましたが、さすがに行き過ぎの嫌いはありましたね。確かに過去10年ほどを振り返れば、中国は世界経済の成長に多大な好影響を及ぼしました。その中国経済が減速し、いよいよ辛い状況を迎えている。そもそも、中国の経済統計そのものの信頼性自体が怪しい。中国発の初めてのショックに多くの市場参加者が慌てふためくのも無理はありません。


世界の中国経済への疑念が表面化した

――19日に発表された中国の第3四半期のGDP(国内総生産)は前年同比6.9%のプラスと6年半ぶりに7%を下回りましたが、それでも市場の反応は比較的冷静ですね。夏場のパニック的な下げに比べると、センチメントも随分と変化しているように感じます。

中国減速の程度を冷静に見定めようとするセンチメントに変化していますね。中国は鄧小平以降、共産主義と資本主義のいいとこ取りとも言える「社会主義市場経済」を推進してきました。海外からの資本を積極的に受け入れて「世界の工場」化に大成功、GDPを90年比で30倍と大きく伸ばしました。

もっとも、市場関係者はもとより各国のエコノミストの多くも、共産主義・計画経済ゆえの経済統計に少なからず疑問を抱いていたわけですよね。あまりにも出来過ぎではないかと。そう思いながらも、ある種見て見ぬふりをしてきた側面があります。それが見て見ぬふりが出来なくなって、一気に表面化したのが今年の夏だったのでしょうね。

――本当、そうですね。中国の経済統計への疑問は、今回の表面化する以前から囁かれていましたね。市場関係者としては、真実を知りたい。ただそれだけなのですが。

まったくその通りです。どれが本当なのか、私も知りたいですよ。一体、どの数字が本当なのか?中国当局は7%成長を標榜していますが、とても届いているとは思えません。実際は3-5%か。いや、2%かも知れない。或いはマイナスの可能性も否定できない。真実が見えないだけに、憶測が憶測を呼びました。

恐らく、中国当局も全てを把握できていないように感じますね。少なくとも、大きくなりすぎた中国が、いい加減なことやっているために、世界経済は不確実性を高めてしまった。先進国の宥和策の大失敗で、「ギリシャの嘘」どころではありません。経済だけではなく、あらゆる分野で、中国が正常な方向に向かうよう世界が注文をつけなければならない。そんな局面を迎えているように感じますね。


チャイナ・ショックとリーマン・ショックの違い

――夏場の下げは行き過ぎであった。つまり、その行き過ぎの修正で戻したのが秋相場であったとも言えるわけですね。ただ、それでも中国経済が減速していることに変わりありません。チャイナ・ショックが再燃する恐れはありませんか?

再燃する可能性は否定できません。それを払拭するためには、具体的な政策が必要でしょう。たとえば、中国当局はリーマン・ショック直後に4兆元の景気対策を発表したことがありましたが、そうした財政政策がマーケットには一番分かりやすいですね。そうなれば、株式市場もよりポジティブに受け止めることも考えられます。

ただ、今回の中国経済を巡る問題は、チャイナ・ショックとかチャイナ・シンドロームとも呼ばれていますが、基本的にリーマン・ショックと異なる点に留意しなければなりません。リーマン・ショックのときは、まさに世界的な規模でクレジット・クランチ(信用収縮)があっという間に広がりました。投資銀行の経営破綻が次々に起こり、ドルの手当が付かず、銀行の貸し渋りが表面化するという深刻な事態となりました。今回のチャイナ・ショックが、リーマン・ショックと異なるのは、まさにこの点なんですよね。

つまり、チャイナ・ショックは、世界規模でクレジット・クランチを引き起こす性質ではなく、どちらかと言えば実体経済に時間をかけて、ジワリと効いて来るものだとイメージしています。

たとえば、記憶に新しいところでは、中国経済の失速で資源購入の減少が鮮明化、市況低迷も長期化して、資源商社のグレンコアの信用不安が伝えられました。今後も中国の影響で一部のセクターや企業の業績悪化が散発的に取り沙汰される可能性があります。これは、ある意味でチャイナ・ショックの余波余震とも言えるでしょう。ただ、そうした企業業績の悪化が世界同時株安に及ぶかは疑問を残すところです。この点が、リーマン・ショックと根本的に異なる部分です。