米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイのA種株式の価格は1965年に一株当たりたった19ドルだったが、今やなんと全米一の20万7千ドル。もともと保険会社だった同社を50年前に買収し、投資部門を中心に多角化させ、育て上げた著名投資家ウォーレン・バフェット氏の功績だ。驚異的な株価には、彼の経営手腕を高く評価した「バフェット・プレミアム」がついている。
だがバフェット氏は、現在85歳。2012年に前立腺がんの治療を受けた同氏の死後、バークシャーの収益や配当がどうなるのか、株主は過去10年ほど気をもんできた。同社には後継体制固めや、規制当局からの経営への干渉の可能性、会社の格付けが下方へ見直される可能性、一部投資の失敗など、難問が山積だ。
副会長の後継者不在、次期バークシャー体制はどうなる?
自社資産の10%をバークシャーに投資している米サザー・フィナンシャル・グループのデイブ・サザー社長は、「バフェット氏はすべてを自分で考えることのできる、ユニークな人物だ。だが、次期バークシャーCEOは、彼ほどの決断力を持たないのではないかと心配だ」と語る。
バフェット氏は今年2月28日、毎年恒例の株主への手紙の中で、バークシャーの一株当たりの純資産は「当初の75万1千倍にまで拡大した」と明らかにしたが、今後について、平均的な米国企業の業績は上回るとした上で、過去のような高成長は見込めないと指摘した。
とはいえ、バフェット氏は各部門に極めて優秀な人材を揃え、彼らに全幅の信頼を置いている。「本業」の保険部門を率いるアジット・ジェイン氏、エネルギー部門の長であるグレッグ・アベル氏、投資ポートフォリオの若手マネージャーであるトッド・コムズ氏やテッド・ウェシュラー氏など、時にはバフェット氏自身の成績を上回るパフォーマンスを叩き出す候補がそろい踏みだ。
この「準集団指導体制」のもと、バークシャーの純収益は2013年の1820億ドルから、2014年には6.5%も上昇して1940億ドルとなった。バフェット氏自身は後継者の具体名は明かさないものの、91歳のチャーリー・マンガー副会長は候補として、アベル氏とジェイン氏の名を挙げている。
バークシャー株主のビル・バーナード氏は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に対して、「資金が豊富で、適正価格でさまざまな産業への投資に積極的なバークシャーは、本部で即決する態勢が確立されており、バフェット後もその態勢が続くだろう」と、固まりつつある後継体制に寄せる信頼感を語った。
バフェット氏の投資手法のウリは、優良株を長期的視野で保有し続けることだった。後継者がこの伝統を守っていくかは不明だが、現時点ではパフォーマンス的に「一安心」かも知れない。ただ、多くの投資家が指摘するのが、「誰がマンガー副会長の役割を引き継ぐか」という心配である。バフェット氏が暴走しそうになると、決まってマンガー氏が止めに入り、全体としてバークシャーは正しい方向に進む。だが、はっきり「ノー」と言える人物が後継者を補佐する体制になるかは、不透明だ。