中国金融
(写真=Thinkstock/Getty Images)

10月の国際金融市場は、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の追加緩和を示唆する発言に続き、中国人民銀行も党五中全会(党中央委員会第5回全体会議)を前にまさかの利下げを発表、さらに預金準備率の引き下げに踏み切るサプライズに見舞われた。中国人民銀行は、同時にそれまで上限を設けていた銀行金利の完全自由化も打ち出すなど、金融市場の改革姿勢を鮮明にしている。中国人民銀行が矢継ぎ早に繰り出す「金融緩和・金利自由化」の背景には、どのような事情があるのか。日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏に解説して頂いた。


経済の平穏で健全な発展のために

人民銀行は10月23日、「現在、内外経済情勢は依然複雑であり、わが国の経済成長はなお一定の下振れ圧力が存在し、引き続き金融政策手段を柔軟に運用し事前調整・微調整を強化する必要があり、経済構造調整と経済の平穏で健全な発展のために良好なマネー・金融環境を創造する」と述べ、利下げと預金準備率引下げのダブル実施を発表した。

昨年秋以降、6度目の利下げ、5度目の預金準備率引下げ(部分的な準備率引下げを含む)である。同時に、預金金利を完全自由化した。本稿では、その措置と背景を解説する。


利下げの背景に「CPIとGDPデフレーターの乖離」

【措置の内容】
10月24日から、金融機関の1年物貸出基準金利を0.25ポイント引き下げ、4.35%とする。1年物預金基準金利を0.25ポイント引き下げ、1.5%とした。その他の期間の貸出・預金基準金利も相応に調整された。

【措置の背景】
人民銀行によれば、基準金利の調整については、主としてCPIの変化を観察しているが、GDPデフレーターをも適宜参考としている。

通常は、CPIとGDPデフレーターの動向は一致しているが、国際大口取引商品価格が大幅に下落し、国内投資・工業品の需要が顕著に鈍化しているため、9月のCPIは前年同期比で1.6%上昇したが、1-9月期のGDPデフレーターは-0.3%と乖離が生じている。また、9月のPPIは-5.9%であった。このため、人民銀行は「総合的に見ると、現在わが国の物価の全体水準はかなり低く、このため基準金利には一定の引下げの余地が存在する」と判断したのである。


預金準備率の引き下げは「外貨流出」に備えた予防的措置

【措置の内容】
10月24日から、金融機関の預金準備率を0.5ポイント引き下げ、銀行システムの流動性の合理的な充足を維持し、マネー・貸出の平穏で適度な伸びを誘導する。

【措置の背景】
人民銀行によれば、現在外貨の流出は落ち着いている。しかし、将来はなお不確定性があり、外貨が再び海外に流出すれば国内の流動性が減少する恐れがある。また、10月は税金の国庫への集中納付があったため、銀行システムの流動性を減少させていた。このため、人民銀行としては、「預金準備率引下げを通じて一部の預金準備金を解放し、銀行システムの流動性の合理的な充足を維持する必要があった」のである。


預金金利の自由化に踏み切った理由

【措置の概要】
商業銀行と農村合作金融機関等に対しては、今後預金金利の変動の上限を設けない。

【措置の背景】
①タイミングの問題
現在、中国は経済の構造調整・構造改革の重大な時期にあり、人民銀行としては、改革の重要項目である金利の自由化を早急に推進する必要があった。

しかも、インターネットの発達により新しい金融商品が次々に生み出され、預金の流出が発生しており、預金金利規制の効果は既に弱体化していた。このため、預金金利を早急に完全自由化して預金流出を防ぐ必要があった。改定後の預金基準金利は1.5%であり、9月のCPIの上昇率は1.6%なので、自由化しなければ再び預金の実質金利がマイナスとなっていたのである。

また一般に、預金金利の自由化は、物価と金利が下落傾向の中で進めたほうが、規制を緩めても、貸出金利が急上昇し企業に打撃を与える可能性は少ない。現在、中国の物価上昇率は引き続き低レベルにあり、市場金利が低下傾向を示していることは、絶好のチャンスであった。

②金融機関側の事情
預金金利の上限を解放する市場条件は、既に成熟していた。貸出金利は既に自由化され、人民銀行は普通・当座預金と1年以内(1年を含む)の定期預金金利について基準金利の1.5倍の上限管理を留保していたのみで、金利規制開放までの距離はあと一歩のところまできていた。

また、主要商業銀行も預金金利の上限開放について、既に十分予想しており、準備を進めていた。さらに、セーフティネットとしての預金保険制度が順調にスタートしたことも、預金金利自由化のための条件を整えたのである。

【筆者略歴】田中修(たなか・おさむ) 日中産学官交流機構 特別研究員
1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月〜9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。2014年4月から中国塾を主宰。学術博士(東京大学)。近著に「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)、「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)、ほか著書多数。

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