(写真=PIXTA)
混合診療とは、公的医療保険で認められている治療法(保険診療)と、認められていない治療法(保険外診療)の併用療養(保険外併用療養)のことを指す。
厚生労働省は次に挙げる2つの観点から混合診療を制限する立場だった。それは、(1)本来、保険診療により一定の自己負担額において必要な医療が提供されるにもかかわらず、患者に対して保険外の負担を求めることが一般化すると、患者の負担が不当に拡大する恐れがある、(2)安全性、有効性等が確認されていない医療が保険診療と併せ実施されてしまうと、科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長する恐れがある——という観点ものだ。
現時点で厚労省は、保険診療と保険外診療の併用を原則として禁止し、「評価療養」(保険導入のための評価を行うもの。治験など)や「選定療養」(保険導入を前提としないもの。差額ベッドなど)を除く混合診療を自由診療とみなし、全額患者負担としている。
新たな「保険外併用」の仕組みとは
混合診療の背景には、海外の新薬が国内で承認されるまでに時間がかかる「ドラッグラグ」の問題がある。
安倍政権下で混合診療の取扱を議論してきた規制改革会議は2014年5月、困難な病気と闘う患者が、未承認の医薬品などの保険外の治療を希望する場合に、安全性・有効性の確認を前提に、現在よりも迅速に、患者の必要に応じて治療を受けられるようにする仕組みとして、既存の「評価療養」「選定療養」に加えて、患者ひとりひとりの治療を主な目的とする、“患者起点”の新たな仕組みを創設することを求める意見書を公表した。
これを受けて、厚労省は従来の方針を転換し、国内未承認の医薬品等を迅速に保険外併用療養として使用したいという患者の思いにこたえるため、患者からの申出を起点とする新たな保険外併用の仕組として「患者申出療養」を新設する案を策定し、2015年9月30日、中央社会保険医療協議会に提示して承認された。
具体的には、患者が医療機関の窓口を通じ、自ら使いたい国内未承認薬などを国に申し出る。臨床医に加えて、薬学や倫理の専門家、患者団体の代表らで構成される国の会議が案件ごとに原則6週間以内に審査を行い、一定の安全性や有効性があれば認める仕組みになっている。治療を実施するのは、特定機能病院やがん診療連携拠点病院の認定を受けた医療機関(全国400カ所以上)であり、2016年4月から新制度がスタートすることになっている。
公的医療保険制度はTPP協定の対象外に
混合医療の解禁をめぐっては、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉時に話題となり、日本医師会などが混合診療の容認に対する反対意見を表明していたが、大筋合意の結果、公的医療保険制度自体がTPP協定の対象外となった。
2015年10月5日に内閣官房TPP政府対策本部が公表した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」をみると、「第11章 金融サービス」で「なお、金融サービス章の規定は、公的年金計画又は社会保障に係る法律上の制度の一部を形成する活動・サービス(公的医療保険を含む)、締約国の勘定、保証又は財源を利用して行われる活動・サービスには適用されないこととなっている。」と明記された。
医療関連分野では、新たに、医薬品の知的財産保護を強化する制度の導入が追加された。具体的には3項目——(1)特許期間延長制度(販売承認の手続の結果による効果的な特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するために特許期間の調整を認める制度)、(2)新薬のデータ保護期間に係るルールの構築、(3)特許リンケージ制度(後発医薬品承認時に有効特許を考慮する仕組み)の3項目である。