(写真=PIXTA)
親からある地方の実家を相続した首都圏在住の30代男性A氏。葬儀一式を終え、相続手続のため、実家のある街を訪れた際、駅前の不動産屋に入って相続した実家が売買できるものか尋ねてみた。
すると、実家を売却するためにはまず「遺産分割協議」をした後、物件の名義を変更して相続を終わらせてからでなければいけないという。少し時間もあるようなので、A氏はこの実家を収益物件として活用するために様々な事例を調べてみることした。
その過程でA氏は衝撃的な数字を目にした。「820万戸」。2013年に総務省統計局が発表した「住宅・土地統計調査」の、全国で空き家と認定された家屋の数である。これは住宅総数の13.5%に当たり、過去最高だという。
活用しなかった場合、いくらかかるのか?
A氏が驚いた約820万戸という空き家の数。空き家がここまで多くなったのは、建物を建てておくと固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に軽減される特例の存在が大きい。
もし空き家を解体して更地にすると、この税金特例が受けられなくなり、所定の計算にして算出した「固定資産評価額」にもとづいて税金が課税される。2015年12月現在、固定資産税は評価額の1.4%(標準税率)、都市計画税は評価額の0.3%(制限税率)となる。この標準税率・制限税率とはあくまでこれらの数字は基準(制限税率は上限)で、実際に適用される税率は市町村ごとに異なる。このため、「建物のあるままに放置しておく」という状況が拡大していった。
この対策として、2014年に「空き家対策特別措置法」が成立した。同法では、倒壊の危険性や周囲の治安上影響がある空き家を「特定空き家」に指定し、所有者に修繕や撤去の勧告をすることができる。「特定空き家」に指定された物件は、固定資産税や都市計画税の軽減対象ではなくなる。このため、同法によって空き家増加に歯止めがかかることが期待されている。
ちなみに現在のところ空き家解体を実施したのは2015年10月神奈川県横須賀市の事例(所有者不明につき解体費用は行政が負担)のみとなっているが、今後本格的な運用が予定されている。
空き家を解体するにも目安1坪あたり3万円~6万円ほど(構造・地域差により変動あり)かかると言われている。そこで相続した実家を空き家にせず、活用するにはどうしたらよいのだろうか。主な活用法としては次の3パターンが考えられる。
空き家にしない3つの活用法
①賃貸物件として活用する
相続した実家が市街地など生活環境の良い立地にある場合は、まず賃貸として活用することを考えるべきだ。「築数十年の木造家屋だから無理」と先入観で決めるのではなく、地元の不動産会社に賃貸物件にできる可能性があるか、問い合わせてみることを勧めたい。
というのも、現在リフォーム業界が活況である。家屋の枠組をそのままにして、劣化部分の交換から内装仕様の変更までを一括で行う業者は数多い。まるで、某テレビ番組のように劇的に”ビフォーアフターする”ことがあり得る。
賃貸物件としての可能性を見る根拠は「立地」にある。建物が生まれ変わり、ファミリー向けの戸建賃貸になったとしたら、通勤通学のため駅へのアクセスはどうか、買い物環境は充実しているか、治安や待機児童問題はどうか……などがチェックポイントとなる。客観的に判断するために、FP(ファイナンシャルプランナー)といった資産管理の専門家にも相談したいところだ。
②管理委託にて活用する
生活をする住宅としての賃貸需要がなくとも活用価値のあるケースがある。たとえば「介護施設」だ。高齢化が進む地方で、デイサービスなどの介護施設として事業者が老朽化した建物を借り、管理委託を受けて運営をする。所有者にとっては空き家回避となる、事業者にとっては土地の購入費用や建物の建築費用がかからないというメリットがある。
主なケースとしては、「最寄り駅から距離のある物件」「(自動車の入りにくい)狭い道路に面している物件」などがあげられる。静かな環境に立地しているため、介護施設として人気の出る物件も多い。
③売却する
リフォームや管理委託は、所有者が継続するケースだけではない。建物を売却し、リフォームは買い手に委ねる方法も効果的だ。多くの思い出が詰まった実家を売却に出すことは感情的に抵抗があるかもしれないが、自身で所有したまま賃貸活用をした場合は修繕費用などの負担が続く。それならば建物は買い手に委ね、買い手の希望に沿ったリフォームを行ってもらうのも一つの手である。不動産流通経営協会の行った調査によると、買い手の約6割が「住宅購入後のリフォーム」を実施したという。
「リフォーム大家」なる言葉も流行している。資産活用の一環として、築数十年の家屋を購入し、リフォームしたうえで賃貸をする人のことである。なかには複数物件の実績を持ち、ブログで紹介している人も多い。
活用するメリット・デメリット
活用にはまとまった出費が必要となるが、賢く「収益物件」として再生することができれば、出費以上の収入を見込むことができる。また、所有を継続する煩雑さも、管理委託や売却によって回避することが可能だ。様々な選択肢がある、と言えるだろう。
実家の相続を受けて「困った」と嘆くだけではなく、自身で様々な可能性を調べ、動くことが実家を「収益物件」として再生させるキーポイントになるだろう。
工藤 崇 FP事務所MYS(マイス)代表
1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経てFP事務所MYS(マイス)設立、代表に就任。WEBコラムを中心とした執筆活動、個人コンサルを幅広く手掛ける。ファイナンシャルプランナー(AFP)。