前回11月24日の投資コラム「どうして日本人は『世界で最も貯金が好き』なのか?」で筆者は「『投資』をする必要性を理解し、まずは初めの一歩を踏み出すことが重要」と述べました。今回は、10数年前の筆者自身の投資行動の「初めの一歩」の実体験を交えながら、金融リテラシーの必要性について述べたいと思います。
結婚資金を目的に株式投資を始める
大学を卒業し、非鉄金属の専門商社に勤務していた筆者は「投資」というものをまったく知りませんでした。そんな筆者が株式投資を始めようと思ったのは、あるキッカケがあったからです。それは「結婚」です。
筆者には大学4年生からお付き合いしていた女性がおり、その女性と結婚すべく、就職後は結婚資金をコツコツ貯めていました。ただ、私の実家は名古屋という土地柄、たくさんの結婚資金が必要だったこともあり、コツコツ貯めてもなかなか必要金額が貯まらないことにやや焦りを感じていました。
中長期の観点で銘柄選びに明け暮れる
そうした中で、私が株式投資を始めるキッカケを作ってくれたのは大学時代の親友でした。大学時代の仲間で「証券会社」に就職したのは彼だけでしたが、ちょうど2002年の年末に東京で働く彼が名古屋に帰省したときに、偶然仕事の話となり、そこで証券会社や株式市場について初めて知ることになったのです。「これだ!」と思いました。
すぐにネット証券で口座を開設後、早速取引を開始しました。最初は何もよく分からないままに、新興市場の銘柄に何度か資金を投じました。運良く、全ての取引で儲けを得ることができましたが、これは「投資」ではなく「投機」。自分はこうした「デイトレード」で資産を増やすのではなく、中長期の観点に立った「投資」で資産を増やしたかったため、すぐこうしたデイトレは止め、どの銘柄に投資をしようか銘柄選びに明け暮れました。
一時は結婚資金が半分に!
その結果、初めての本格的な投資銘柄として筆者が選んだのは、「みずほHD(現在のみずほFG <8411> )」でした。なぜ金融株に投資しようと思ったのかというと、それは、当時の小泉政権が竹中平蔵を金融担当大臣に任命し、「金融再生プログラム」いわゆる「竹中プラン」を断行することで、金融機関の不良債権処理を推進する政策をとっていたためです。
政府の後押しで銀行は不良債権問題を乗り越え、通常の姿に戻っていくという確信めいた考えのもと、私は当時のみずほHDに1株11万6000円で結婚資金を全額投資しました。
その後、みずほ株はどうなったかというと、金融システム改革を進める上で、金融機関の破綻懸念が強まったこともあって、株価の下落基調が続き、4月末には取得価格の約半値となる5万8300円まで下落。正直生きた心地がしませんでした。ただ、幸いなことに、その後5月に入り「りそな国有化」で当局が銀行をつぶさないという姿勢を鮮明にし、銀行株にまさに「神風」が吹いたことから、2003年9月にみずほ株が取得価格の倍になったところで保有株のすべてを利益確定することができました。
このみずほ株投資については、道中どうなるかハラハラする場面もありましたが、最終的に取得額の2倍にまで上昇するという「結果オーライ」の形となりました。ただそれはあくまでも「ラッキー」だったに過ぎず、今後投資を続けていく上で、こんな投資の仕方ではいけないと強く感じたことを覚えています。
筆者がみずほ株の取引で学んだこと
何がいけなかったかというと、①みずほ株という1銘柄に集中投資したこと、②複数回に分けての買い付けを行わなかったこと、③損切りをしなかったこと、などなど挙げればきりがありません。
①のように1銘柄への投資は危険です。株の世界ではいつ何時に突発的なことが起きるかわからないからです。また②のように、1回ですべての金額を投資してしまうと、その後、不測の事態が起きたときに、何も対処できなくなるため、買うときは必ず複数回に分けて投資する必要性を痛感しました。
③については、投資の世界で重要なのは損失をいかに最小限に抑えることが大切かを痛感しました。自分の目論みがはずれ、ある一定度合いまで下がった場合は速やかに損切りをしないと、取り返しのつかない損失を被り、投資の世界から撤退を余儀なくされます。下がると希望的観測でその株を保有しようとしますが、こうした考えを捨てることの必要性をこのみずほ株の取引で学びました。
失敗をいかに次の「糧」にするかが大切
こうした反省を踏まえ、以後は株式関連の本や新聞などを何度も何度も読み返し、銘柄発掘に力を入れました。今思うと、よくもあれほど、いろいろなものを読み漁ったと不思議に思います。投資の世界に魅了されていたんでしょうね。その後どうなったかというと、何度も失敗と反省を繰り返しつつも、結果的には当初の結婚資金を約5倍程度にまで増やすことができ、無事結婚することができました。
「投資」をする上で重要なのは、失敗をいかに次の「糧」として捉えることができるかどうかという対応力。失敗から何も学ばないと、また同じ失敗を繰り返すことになり、「投資は難しい」ということになってしまいます。
加えて、株価の動きはその企業の利益成長性に連動する傾向が強いことを踏まえると、業績の伸び続きそうな企業をいかに発掘できるかなども大事だと思います。ただ、利益成長銘柄を発掘するには日ごろからの情報収集、世の中の変化を感じる観察力などが重要といえ、こうした力を磨くための日ごろからのトレーニングが必要だと感じました。
将来の「目標」を見据えた「投資」の活用を
あれから10数年ーー筆者は現在、証券会社で日本株のシニアストラテジストとして働いていますが、今回紹介した体験談からも分かるように、誰でも「投資」の第一歩を踏み始めたときは初心者で、様々な失敗を経験するものです。
「投資」というとハードルが高いように感じる方が多いと思いますが、今では少額から始められる商品も多く、誰でも簡単に「投資」の世界に足を踏み入れることができます。私は「結婚」という目標から「投資」を始めましたが、みなさんも「老後の資金」、「子供の教育費」、「将来の住宅購入」など何か具体的な目標を掲げてみると、意外と簡単に「投資」の世界に馴染めるのではないでしょうか。
少額であれ「投資」をしてみると、不思議なことに世の中を見つめる視野がぐっと広がります。そこに面白みを感じると、自分から情報収集するなどして、能動的に「投資」に対して知識を深めようという気持ちが湧いてきます。金融リテラシーの「格差」によって、将来の生活水準等が大きく左右されるであろう、これからの時代。なるべく若いときから将来の「目標」を見据え、少額の資金からでも「投資」を活用して頂けたらと思います。
石黒英之(いしぐろ・ひでゆき)
専門商社勤務を経て2004年に岡三証券に入社。入社後は渋谷支店で個人営業に従事。2006年岡三経済研究所経済調査部(現:岡三証券 グローバル金融調査部)を経て、2008年岡三証券投資戦略部日本株情報グループに配属。2010年日本株情報グループ長(現:日本株式戦略グループ長)となる。