(写真=PIXTA)
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テレビや新聞など国内メディア向け広告を中心にビジネス展開してきた日本最大の広告会社・電通が、海外企業の買収によって一気にグローバル・ネットワークを確立しようとしている。

電通の海外展開の基本戦略はM&A

急速に海外展開を進める電通の基本戦略はM&Aだ。2012年は3社に留まっていた買収(または株式取得による経営権獲得)の案件数は13年には12社、14年には15社、15年では21社と、年々加速させて規模も拡大させている。以下はその案件のごくごく一部だ。

●2012年
・ブラジルの独立系DA(デジタルエージェンシー)「ラブ社」買収
・カナダの広告会社「ボス社」買収と電通カナダとの統合
・インドのCA(クリエイティブ・エージェンシー)「タプルート社」の株式51%取得で合意

●2013年
・米国の独立系PR会社「ミッチェル・コミュニケーション・グループ」買収
・タイのブランド・コンサルティング会社「ブランドスケープ社」買収
・ルーマニアのDA「キネクト社」を買収
・中国のデジタルCA「トリオ社」を100%買収

●2014年
・中国のソーシャルCA「ベラウォム社」株式100%取得で合意
・フランスのモバイル・エージェンシー「レ・モビリザーズ社」の株式100%取得で合意
・ブラジルの独立系最大規模の総合広告会社「NBS」の株式70%取得で合意
・カザフスタンの広告会社グループ「フィフティー・フォー・メディア社」株式51%を取得で合意
・インド最大のOOH専門の広告会社「マイルストーン社」の株式51%取得で合意
・米国のデジタル・マーケティング・エージェンシー「ロケット・インタラクティブ社」の株式100%取得で合意

●2015年
・インドの総合DA「WATコンサルト社」株式100%取得で合意
・イスラエルのDA「アバガダ・インターネット社」株式100%取得で合意
・米国のスポーツエージェンシー「アスリーツ・ファースト社」持分33.3%取得で合意
・シンガポールのCA「マンガム・ギャクシオーラ社」株式20%を取得
・ガーナのメディアエージェンシー2社を買収
・フランスのCARBS「セイム・セイム社」株式100%取得で合意

これらのM&Aにより、電通の海外ネットワークは124カ国300拠点、売上総利益6769億円、海外グループ従業員4万300人の規模にまで拡大している(2014年度実績)。

そして2015年度上半期の売上総利益は、国内46.2%に対して海外比率は53.8%と、すでに売上総利益の半分以上を海外で稼ぐまでになっている。またその地域分布も欧州・中東・アフリカ19.8%、アジア太平洋14.6%、米州19.4%と、地域的なポートフォリオもバランスを取っている。

グループ売り上げでは世界5位に過ぎない

日本の広告市場のシェアの25%と圧倒的な強さを誇る電通も世界では5位(60億ドル)。世界のエージェンシー・グループでの売上総利益では、ジェイ・ウォルター・トンプソン、オグルヴィ・アンド・メイザーなどを傘下に置くWPPグループ(189億ドル)、オムニコム(153億ドル)、ピュブリシス(96億ドル)、インターパブリック(75億ドル)に次ぐ規模だ。

日本の広告市場は、最近の景気回復のトレンドに伴って回復基調に戻りつつあるものの、長期的には人口減や経済成長率の低下などにより頭打ちになると予測されている。そのような環境下で成長を維持するには、海外マーケットに活路を求めることは必然だろう。

そして、急速に進むグローバル化の流れの中で規模の大きな先進国と成長著しい後進国のビジネスを同時に取り込むためには、自前で拠点を築くよりもM&Aによって時間・ノウハウ・スタッフといった「ソフト」を買うことが得策と判断した。世界のトップ・エージェンシーがM&Aを重ねてグローバル展開をはかり規模を拡大してきたことも、電通のロールモデルになっている。

M&Aを可能にしているのは、世界第2位の規模を誇る日本の広告マーケットの25%を占める収益力だ。1兆円を超える純資産と高い信用格付けによる資金調達力による潤沢な資金がバックグラウンドにあることは、電通の最大の強みだろう。

海外投資拠点も買収で構築

電通は2012年、当時世界8位だった英国の広告会社「イージス・グループ」を買収した(2013年3月に買収を完了、買収額は約4000億円)。

当初、世界規模では決して大きくないイージスへの投資に懐疑的な見方が多かったが、電通の狙いは同社のグローバル・ネットワークを利用することだった。買収完了後、124カ国で展開する電通グループの海外事業運営統括する拠点として、海外本社「電通イージス・ネットワーク社(Dentsu Aegis Network Ltd.)」に改組した。電通の海外投資拠点としての機能が与えられ、これによりM&A案件の情報収集と判断のスピードを加速。海外を中心としたM&Aに2017年までの3年間で1000億円を投じる方針を発表している。

電通のM&Aのもう一つの特徴は、デジタル領域への集中投資だ。電通の売上総利益の中でデジタル領域の比率は現在33%だが、2017年度には35%以上に成長させるという目標を掲げている。そのために買収もデジタル領域での可能性が高い企業が大半だ。

ここから見えるのは、世界中で急速に拡大し続けているデジタル領域がエージェンシー・ビジネスで生き残るために極めて重要であり、この動きに乗り遅れてはいけないという電通の強烈な危機感だ。

ライバル博報堂、ADKの動きは?

電通のライバルとされる国内第2位の博報堂は、15年3月期上半期売上総利益が969億円のうち海外は60億円と、その割合は10%に満たない。博報堂はかつての電通と同様に、国内企業の海外進出に対応するために海外拠点を整えてきた。現在も博報堂の基本戦略は「パートナーとしてクライアントをサポート」であることを表明しているが、日本企業の方針と業績に大きく左右されるというデメリットがある。

その拠点は中国を中心としたアジアに比重が置かれているため、そのほかの新興国や規模の大きな先進国に対応する必要もあるが、その体力が現在あるかというと疑問符がつく。2019年3月期までの中期経営計画で掲げている、売上総利益中の海外比率を20%にするとの目標達成は未知数だ。

国内第3位のアサツーディ・ケイ(ADK)も海外展開は早かったものの、あくまで海外に出たい国内企業のリクエストに対応するためだった。博報堂同様にその拠点と活動はアジアに傾倒しており、自力でのさらなる海外ビジネス拡大には限界がある。そのため資本・業務提携している世界最大のWPPとアジアで広告枠を共同購入するなど、WPPとの連携に活路を見出そうとしている。

多国籍企業から指名される存在になるために

グローバル規模でのビジネスを獲得し企業として成長するためには、グローバル・アカウントと呼ばれる多国籍企業からの指名を狙う必要がある。そのためにはグローバル・ネットワークを自前で持つことが何よりも重要だ。

サービス業である広告会社にとっては、世界での拠点というハード以上に、ノウハウやスタッフという「ソフト」の獲得が非常に重要だ。特に急速に成長しているデジタル領域でのノウハウの蓄積と展開は、今後のエージェンシーの成長を左右する重要な戦略だ。電通にとっては「時間をカネで買う」という非常に合理的な判断だと言える。(ZUU online 編集部)

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