東京都心部Aクラスビル市況見通し

2016年から2022年までの東京都心部Aクラスビルの空室率と賃料を、今後の経済見通しや新規供給計画、オフィスワーカー数の見通しなどから予測を行った。

推計の結果、東京都心部Aクラスビルの賃料は、2017年Q1期(2015年Q4期比+0.7%)まで横ばいが続き、消費税率の引上げ時(2017年Q2期)から下落が始まると予測された(図表-10)。

その後、2018年と2019年の大量供給に伴い賃料の停滞は続くが、2019年Q2期を底に(2015年Q4期比▲17.8%)賃料は上昇傾向となり、2022年には2015年比で▲9.7%まで回復するという結果となった。

Aクラスビルの空室率は、2016年中はほぼ横ばいで推移するが、2018年から2019年初めにかけて5%代後半まで上昇し、2020年から回復が始まると予測された。

当面の賃料のピークは2015年Q4期を基準として、標準シナリオでは2016年Q2期の+4.9%、楽観シナリオで2016年Q2期の+13.6%、悲観シナリオは今後、下落が続く。

賃料の底は標準シナリオで2019年Q2期の▲17.8%、楽観シナリオで2019年Q3期の▲7.6%、悲観シナリオで2021年の▲31.7%だった。また、2022年の賃料水準は、2015年Q4期を基準として、標準シナリオで▲9.7%、楽観シナリオで+2.5%、悲観シナリオで▲28.1%だった。

標準シナリオにおける2015年Q4期以降の一年ごとの変化率は、2016年+0.2%、2017年▲8.4%、2018年▲8.4%、2019年▲1.7%、2020年+5.0%、2021年▲2.4%、2022年+6.6%であった。

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おわりに

東京のAクラスビル市況は現在、着実に改善が進んでいる。空室率は低下し、賃料も上昇傾向が続いている。しかし、2014年10月以降、消費税率の8%への引上げに伴う消費の落ち込みなどから、オフィス需要の純増分が縮小してきている。また、オフィス賃料に関しては改善期が約4年続き、過去の賃料サイクルを考慮すると市況の潮目が近づいてきている可能性が高い。

なお、弊社が行っている不動産市況アンケート(*6)によると、不動産投資市場の6ヵ月後の景況感の見通しDIは、2008年調査以来、7年ぶりのマイナスとなった(図表-11)。

オフィス需要増加分の縮小傾向は、最近の大規模新築ビルの竣工の少なさにより、都心の築浅の大規模ビルにおいてまとまった空室が少なくなっていることも一つの要因と思われる。そのため、今後の大規模ビルの新規供給に伴い、本稿での予測を上回る需要が喚起される可能性もある。

今後の東京Aクラスビルのオフィス市況の堅調な推移のためには、面積需要の旺盛なIT系やゲーム・アミューズメント企業、外資系企業などの起業支援や立地促進に加え、郊外などに立地する自社ビルが老朽化した企業の都心誘致、生産年齢人口の増加や高齢者・女性のさらなる雇用拡大、さらには2020年東京オリンピック関連事業やインバウンドの一層の拡大などによる、オフィス需要への取り込みが重要になると考えられる。

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(*1)本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区業務地区とその他オフィス集積地域)や延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルをBクラスビルとしている。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2016」を参照のこと。賃料は月坪当りの共益費を除く成約賃料。
(*2)2015年の見通し結果は竹内一雅「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2015年)-2015年~2021年のオフィス賃料・空室率」(2015.2.12)ニッセイ基礎研究所、2014年の見通し結果は竹内一雅『東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2014年)-2014年~2020年のオフィス賃料・空室率』(2014.2.5)ニッセイ基礎研究所を参照のこと。
(*3)Aクラスビル、Bクラスビルの定義は脚注1を参照のこと。
(*4)2015年は品川シーズンテラスや東京日本橋タワー、大崎ブライトタワー・ブライトコア、鉄鋼ビル、大手門タワー・JXビルなどの大規模ビルの供給があった。Aクラスビルの賃貸可能面積の減少は、取り壊しや募集停止に加え、築年が経過するなどAクラスビルの要件からはずれた場合に生じる。
(*5)住民基本台帳人口移動報告によると2015年の東京都への転入超過数は8万2千人で前年比+11.5%の増加だった。
(*6)増宮守「景況見通しが一変、悲観が楽観を上回る~不動産価格のピークは15~18年と見方分かれる~第12回不動産市況アンケート結果」(2016.1.25)ニッセイ基礎研究所

竹内一雅(たけうち かずまさ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産市場調査室長

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