(写真=PIXTA)
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キャリアアップのために会社を辞めて弁護士を目指そうというビジネスパーソンの方へ。約10年前にまさにそれを実行し、弁護士資格を持つ筆者から、ちょっとしたアドバイスをさせて頂きたい。

甘い幻想を抱いて目指すのはやめておいたほうがいい

まず「弁護士は超難関資格であるから食いっぱぐれない」とか、「会社員時代より収入が増えることは間違いない」などと幻想を抱いているなら、是非この書籍、『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美著、新潮新書、2014年)を読んで欲しい。この本の内容は、やや大げさとは思うが、方向性としては事実だ。

どんな職業でも当たり前のことであるが、肩書だけで報酬を手にできるなんて甘いことはない。実務をお客さまに評価してもらって初めて報酬を手にすることができる。弁護士も同じだ。

特に弁護士は人数が急増し競争が激化していることから、資格さえあれば食いっぱぐれないなんてことはありえないし、会社員時代より収入が増えることは間違いないなんてこともありえない。

だから甘い幻想を抱いて会社を辞めて弁護士を目指そうというのであれば、やめておいたほうがいい。そうではなく、やりたいことが法曹界にあるなど明確な目的意識を持っているのであれば、是非チャレンジしてみてほしい。

無収入・キャリア途絶期間をなるべく短縮する

会社を辞めて弁護士になるまでは相当長い道のりだ。

一般的には弁護士を目指してチャレンジする場合、既修者なら2年間、未修者なら3年間、まずは法科大学院に行くことになる。そして卒業後すぐの5月の司法試験を受験しても、合格発表は9月であり、合格した場合、その年の12月から1年間司法修習に行くことになる。司法修習は給与がなくなり貸与制となったため、貸与を受けても最終的には返還しなければならない。そして司法修習最後の2回試験に合格して初めて弁護士資格の取得が可能となる。

つまりは短くても4〜5年近くの無収入状態およびキャリアの途絶が生じることになる。司法試験にすぐに合格できなかった場合、その期間はさらに伸びることになる。会社を辞めて弁護士になるということであれば、この無収入・キャリア途絶期間をどう乗り切るかが重要課題となる。

まずはこの期間をなるべく短縮することを考えたい。法科大学院に行かず予備試験を受験するというルートがある。予備試験であれば会社を辞めずに受験することができるから、こちらを試してみるというのも一考だろう。予備試験の受験勉強に取り組むことで、法律の勉強に対する自らの適性を知ることもできよう。また未修者であっても先に法律の勉強をすることで、あえて法科大学院の既修者コースに入学するという手も考えられる。

頼れる人には頼ること

この期間の費用の確保も考える必要がある。働いて貯金をしてそれから法科大学院へ行くという手も考えられるが、4〜5年近くもの生活費を貯めるのはなかなか容易ではないだろう。それぞれの法科大学院は奨学金制度を用意しているから、可能な限り利用すべきであろう。

また親の支援を当てにできるのであれば、頼るべきだ。この年になって親に頼るのはと思っているあなたは、胸に手を当てて考えるべきだ。本当に自分は弁護士になりたいのか、と。本当に弁護士になりたいのなら、見栄も外聞もかなぐり捨てて、頼れる者には頼るはずだ。親に頼って弁護士になり、弁護士になってから親に恩返しすればよい。親だってそのほうが嬉しいはずだ。

もしあなたに配偶者がいて頼ることができるというのであれば、親の場合と同じ理由で、頼るべきだと思う。弁護士を目指すあなたを支えてくれる心優しい配偶者に感謝して、がむしゃらに勉強して、弁護士になってから存分に恩返しすれば、配偶者もきっと喜ぶはずだ。

自らのブランディングの準備を進める

会社を辞めて弁護士を目指す長い道のりを、戦略的に進んでいくことも必要だ。つまりこの期間をただ司法試験の勉強に費やすのではなく、弁護士になった後を見据え、キャリア形成の準備期として過ごすのだ。弁護士は数が増え競争が激しくなっているのだから、単なる「弁護士」としての肩書を得るだけでなく、「○○に強い弁護士」という評判を得ることができるために、今から準備をしておくのだ。

会社を辞めるあなたは、これまで会社で経験してきた業務分野があるであろう。どんな業務分野であっても必ず法律が存在するはずだ。その業務分野と法律とが交錯する部分をあなたの強みとするのが手っ取り早いだろう。

仮にそれが見当たらないとしても、「○○に強い弁護士」という何らかの強みを持ち差別化していくことは極めて重要だ。このような強みは法律事務所への就職活動をする際にも強力なアピール材料になるし、弁護士になった後のあなた自身のブランディングをする際に大いに役立つ。弁護士は自分自身が商品であることをよくよく自覚されたい。(星川鳥之介、弁護士資格、CFP(R)資格を保有)