東日本大震災と東京電力 <9501> の福島第1原発事故の発生以来、核エネルギー開発が逆風にさらされ、原子力発電への批判も高まっていた。事故当時に政権の座にあった民主党政府は革新的エネルギー・環境戦略を策定するとともに、「2030年代に原発稼働ゼロ」を掲げて、原発の削減に舵をきっていた。他方で、自民党が再び政権の座につくと、再稼働の動きが急進。九州電力 <9508> が再稼働を果たし、関西電力 <9503> も続きそうだ。
電力各社の原発再稼働への取り組みが進む一方で、原発プラントのメーカーが気を吐いている。政府の取り組みも熱心で、政府は2014年に「エネルギー基本計画」を閣議決定し、その中で、インフラ輸出を促進する姿勢を鮮明にしている。昨年末には、政府とインド政府が日印原子力協定の締結で原則合意。1基あたり5000億円規模ともいわれる原子力関連事業において、日系メーカーからの原発輸出が続けば、関連産業への波及効果も大きそうだ。
日立が原発などインフラ輸出で好調を維持
海外インフラの受注が好調なのが、日立製作所 <6501> だ。同社はイギリスの都市間高速鉄道の車両製造と約27年の車両保守事業を受注しており、海外インフラ事業でも存在感を示しており、同社によるイタリア・鉄道信号機メーカーの買収もまだまだ記憶に新しい。
さらに、日立は、原子力発電事業の強化も推進。2012年には、英・原子力発電事業会社のホライズン社を買収。イギリスのアングルシー島ウィルファとサウスグロスターシャー州オールドベリーの2カ所で、同社がそれぞれ2、3基ずつ原子力発電所を建設する予定で、2020年代前半にも稼働がスタートする見込みだ。
新しく建設される予定の原子力発電所を巡っては、第3世代の先進核技術を組み込んだ改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の活用が想定されており、総投資額が3兆円を超えるとみられる。その4割ほどにあたる1兆円の投資分が日本の企業連合に割り当てられることが明らかになっており、原子力プラントメーカーや関連部品メーカーにとってまたとないビジネスチャンスが実現していると言えそうだ。
東芝・三菱重工・IHIも名を連ねる注目の関連銘柄
ただ、世界の原子力発電所建設の受注競争は熾烈化しており、国内メーカーもいやおうなく巻き込まれている様子だ。
その中で、不正会計問題に絡み、巨額の赤字に陥った東芝 <6502> は、米・ウエスチングハウス・エレクトックが、インドで原子炉6基の建設を受注するなど、原子力部門では好調を維持している。同社は2014年度から2029年度の15年間で、64基の原子力発電所の新規建設を目標に掲げており、さらなる拡大も期待される。
また、三菱重工 <7011> は、日本国内で23基のプラントを設計するなど豊富な実績を持っており、海外展開にも注目が集まる。仏アレバと連合を組んでおり、同社は、トルコで原子力発電所4基を受注することが確実視されているという。
原発事業で気を吐いている企業には、ほかにも、プラント大手の日揮 <1963> がある。日立が計画するイギリスウィルファでの原子力発電所2基の建設工事を同社が請け負う見込みで、日立と米建設大手のベクテルと3社と2016年度中に企業共同体設立に向けた協議に入ることを明らかにしている。
原発部材サプライヤーの注目銘柄は?
日本企業が世界各地で原発の新規建設案件を次々と受注する中、産業のすそ野が広い原発建設では、部品サプライヤーとして日本企業の強みが発揮できる可能性も秘めている。具体的には、日本製鋼所 <5631> がその一つだ。
同社は100万KWクラスの発電プラントで使用されるロータシャフトや原子炉容器で非常に大きいシェアも保持しているなど、世界的な原発部材の供給元となっている。
また、米ウェスティングハウス社の原子炉格納容器の設計と製作を請け負ったIHI <7013> や、JFEホールディングス <5411> の子会社であるJFEスチール、コベルコ <5406> などが原発部品サプライヤーとして注目を集める。
海外での原子力発電所建設に活路を見出したい日本企業にとってポイントとなるのが、原発の建設を進める国々の動向だ。例えば、国連の予測によれば、インドは2022年には中国を抜いて世界最大の人口を抱える国になる見込みで、60基以上の原発新設を構想しているという。
同事業では、海外企業に建設を請け負わせる計画もあり、日印原子力協定の締結で原則合意した日本にとってはまたとないチャンスが訪れようとしているのかもしれない。(ZUU online 編集部)