まとめ

櫨 : どうもありがとうございました。それではだいぶ時間もなくなってきてしまいましたので、最後にまとめとして、こういうことを日本の企業、あるいは日本の政府がやっていけば、これから労働力がどんどん減少していく中で、日本の企業も活力を失わないし、日本経済も活力を保ったままやっていける。

例えば生産性の向上とか、機械化をするなど、いろいろなことが考えられると思うのですが、そういった課題のようなことを、皆さまにお話を頂ければと思います。それでは、また大谷様から順番にお願いいたします。

大谷 : まず1点目は、グローバル化、ダイバーシティを進めるにあたり、今までつくってきた日本の伝統としての社是や理念を浸透させることができるか。これは、企業を永続的に発展させるために必要だと思います。2点目は、先ほどから申し上げているとおり、人事制度そのものについてもいろいろなグローバル化やダイバーシティへの対応が必要で、ここがかなり急がれていると私は思っていますし、当社としても急がなければいけないと認識している課題です。

櫨 : どうもありがとうございました。では次に、白木先生、お願いいたします。

白木 : 先ほど私の最後の問題提起のところで、日本のウィンブルドン化ということで、どこかでウィンブルドンをつくって、世界最高水準のものをつくっていく必要があるのではないかということを申し上げました。

しかしこれはなかなか難しいです。実際には、ジャパンパッシングが起こっている面があります。前に高度IT人材を日本に5万人増やすことを閣議決定したことがありました。その年限が来たときに調べてみましたら1万数千人しかいませんでした。来てくれないのです。

それから、日本にある世界的な企業のアジア本社も違うところに移っています。例えばP&Gが神戸からシンガポールに移りました。日本人のスタッフも、どさっとシンガポールに移って、P&Gの近くで日本人村のようになっているという話を聞きましたが、数百人移れば本当なのでしょう。

それぐらい日本の魅力をどれぐらい保てるかは切実な問題だと思っています。ウィンブルドンなどという調子いいものではないよと。せいぜい、できているのは大相撲だと思っています。日本は大相撲がウィンブルドンです。

日本にしかないからかもしれませんが、外国から来てレベルを上げてくれています。白鵬とか、いろいろな人が来てくれなかったら、今、レベル的には、前頭の人が大関、横綱を張っていたかもしれません。乱暴な議論をすれば、そういうことです。

ですから、来てもらわないといけない。そういう魅力のあるところをつくらなければいけないというのが大前提なのですが、よく考えてみると、先ほどの人事のシステムも含めて、受け入れできるのかという問題があります。本社も含めて、日本の中で使いこなせるのかというのが一つあろうかと思います。

これは幾つか理由があると思います。一つは語学の問題です。これは単語力が強いということではないのです。エクスプレッションの仕方など、丁寧に説明することがどうしても必要なのです。日本人同士だったら説明しなくても分かりますが、それを説明しなければいけない。目で話をしてはいけない。口で説明していく。あるいは紙で説明するというトレーニングが必要だと思います。

それから、やはり経験がものを言います。経験がない人は、50歳になっても海外に行って管理職として意思決定できません。われわれが調査しますと、海外に赴任してトップマネジメントになるのです。海外現地法人へ行くと、大体2ランク上がりますから、ミドルマネージャーはトップマネージャーになります。そこでリーダーとして大丈夫かということで、厳しい批判をされます。

この人たちは、能力は高いのですが、経験していないのです。私は、経験値は非常に重要だと思っています。ですから、若いときに意図的に経験させることが非常に重要だと思っています。

さらにもう一つだけ付け加えさせていただきます。ダイバーシティの問題ですが、いろいろな人が入ってくると、一時的には効率性が下がります。しかし、先ほどの樋口先生の図で、5~6年してから生産性が上がるというグラフがありました。あれと同じような感じです。

いろいろな外国人が入って、本社で英語で会議をしたりして大変なので、一時的には相当下がると思いますが、これを超えて何年かすると、上がっていく。一時的な効率性の低下は避けられないと思います。

ダイバーシティの中で最も重要な、あるいは、グローバリゼーションの中で最も重要なポイントは、いろいろな意味で複雑性が増すということです。複雑性がキーポイントです。これが増して、それをどうやってクリアしていくかが、国内において非常に重要になっていくと思います。海外においてはなおさらです。若いときからなるべく効率性の低下をしないような形で、できるような人材育成をしていくことが重要ではないかと思っています。

櫨 : どうもありがとうございました。それでは松浦主任研究員、お願いします。

松浦 : 多様な人材がいるというだけなら、企業にとって、それほどいいことはありません。多様な人材をどうやって統合して成果に結び付けていくかということが、重要なポイントなのです。一方、日本の企業では、なまじ同質性の高い人材で長い間成功してきたが故に、多様な人材を統合して成果に結び付けていく土壌ができていないのです。

今後、日本的人事システムをどう変えていくか、ということが重要な論点になります。日本的人事システムを欧米型にすればうまくいくという単純な話ではなくて、私は日本型と欧米型のハイブリッドを模索する必要があると思っています。ハイブリッド型の中身について、真剣に議論する段階に来ていると思います。

櫨 : ありがとうございました。それでは樋口先生、最後にお願いいたします。

樋口 : 私の意見も皆さんと共通したところがありまして、今後はやはりダイバーシティというのが一つのキーワードになるのではないかと思います。特に労働力人口が減少する中においては、今日のテーマであったような、若い人、高齢者、男性も女性もというような、ある意味では皆の希望と意欲、能力を発揮できることが最大の企業の強みとなっていくのではないかと思います。

ワークライフバランスと言うと、よく労働時間の問題にフレキシビリティをどのように加えるのか、あるいは長時間労働をいかに改善していくのかというところで指摘されます。

そしてもう一つ重要なこととして、私は転勤の問題があるのではないかと思っております。日本では非常に頻繁に配置転換が行われる。民間の企業もそうですし、公務員もまさにそういったところがありまして、大体3年で転勤をしていく、あるいは配置転換ができているということです。

このメリットは、申し上げるまでもなく、広い視野からものが見られるようにということで、他の仕事も経験する必要があるだろうということもあるかと思います。あるいは、顧客との癒着や不正を防止するということで配置転換をしていると思います。

一方で、これで失われたものもかなりあるのではないか。例えば3年で配置転換ということになると、要は前任者がやってきたことをそのまま追随して、問題は先送りされてしまったまま、責任が取れないという体質が起こってきているのではないかと思います。

転勤についても安易に、そして頻繁に行われるということになれば、ある意味では個人の生活も、単身赴任で家族とは別、あるいは女性の活躍という面では、夫も妻も転勤となったときに、子どもはどうするのかという問題が出てきます。

今までの、どちらかというと無限定正社員を活用するのを全部なくせということではないのですが、やはり地域限定、あるいは職務は少なくともフィールドの中、関連している仕事の中で経験を積ませることによって、仕事の複雑さに対応できる、または責任を取れる仕組みをつくっていくことが、会社にとっても個人の成果を求める以上、そして能力の向上、あるいは問題の先送りをさせないというところでは必要になってきているのではないかと感じています。

また、これができない限り、私は地域の創生はないと思っています。みんな本社から責任者が来て、2~3年たって、また戻っていくということになると、まさに地域に人材が育たないという問題まで抱えている。これが地方創生との関連においても、それぞれの地域、あるいは企業の柱、コアになるところではないでしょうか。この問題は海外の子会社などでもよく起こっています。

そこのところは、ダイバーシティというものを想定しながら、人材の活用、あるいはその人たちが能力を発揮できる状況をどうつくっていくのかというのが、古くて、また新しい問題ではないかということをあらためて感じました。

櫨 : どうもありがとうございました。語り尽くせないというか、まだまだ議論すべきことはあると思うのですが、時間が来てしまいましたので、この辺で終わりにしたいと思います。

議論をまとめれば、やはり多様性、複線型、ダイバーシティというのがキーワードではないかと思います。日本はこのままではいけなくて、やり方を変えなければいけないと思います。

具体的なお話としては、だいぶ耳の痛いお話もありました。机を片付けろという樋口先生のお話から、マインドセットを変えろ、ご近所で顔を知られていないから不審者と思われるかもしれないというお話もありましたが、今日の議論を通じて、あるいは樋口先生の基調講演から何かヒントを得ていただければと思います。

司会の手際が良くなかったので、議論がうまく進まなかったところもありますが、これでパネルディスカッションを終わりにさせていただきたいと思います。どうも皆さま、ありがとうございました(拍手)。

司会 : 最後までご清聴いただき、ありがとうございました。あらためまして、長時間にわたりご議論をいただきましたパネリストの皆さまを、盛大な拍手でお送りいただければと存じます(拍手)。

本日は「人手不足時代の企業経営」と題してシンポジウムを開催させていただきました。皆さまの今後の事業のご参考になれば幸いです。以上をもちまして、本日のシンポジウムは終了させていただきます。本日は当シンポジウムにご来場いただき、誠にありがとうございました(拍手)。

ニッセイ基礎研究所 2015/10/22シンポジウム パネルディスカッション

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