「本来のCSR」とCSVの同時性を言い始めた人々

筆者は「本来のCSR」とCSVを両輪関係と表現したが、最近になって両者を統合的に考えようとする人々が現れてきた。代表的な考え方は、以下のとおりである。

◆オルタナ編集長の森摂氏は「CSR/CSV」の表記を提唱

両者は最終的には社会的課題の解決と経済的な成果をめざしており、企業内部で完結するのではなく、専門家・大学・NPOなどの企業外部との協働であること、そして「未来の顧客」を増やすことが共通する。そこで、両者の違いをオリンピックに例えて、「CSRはルール、CSVは競技」と表現する。

◆伊藤園の笹谷秀光氏は「CSRからCSVへ?」と表現

CSR(ISO26000)は人権・労働・事業慣行・環境・消費者などに網羅的に対処する世界標準であり、国内外で浸透してきている。一方、CSV(ポーター教授)は社会的課題解決と高収益・競争優位の同時実現をめざす米国発の戦略論であり、国内外の経営者に話題となっている。

しかし、それぞれ活用局面・次元が異なるため、両方が必要である。そこで、「CSRの進化+CSVの進化⇒両刀使いの経営へ」と表現する。

◆一橋大学教授の名和高司氏は「CSV2.0」を提唱

社会の抱える課題を解決することで社会価値と経済価値を両立させるべきとするポーター教授の“CSV思想"を、どのようにして経営に落とし込むか。その実現要件・課題を分析する中で、「CSV2.0」の必要性を指摘する。

そのうえで、「志」を大事にする日本的経営理念に基づくCSV戦略「J-CSV」を提唱しており、最終的には持続可能な社会と競争力ある企業経営の両立をめざしていると理解できる。

これまで述べてきたことから、「本来のCSR」とCSVの考え方が対立するのではなく、相互に本質を理解しつつ、本業で社会的課題を解決して持続可能な社会を構築し、かつ企業価値を高めるためには、今後、「CSRの実践」と「CSVの実現」の同時性が必要である。これが、まさに21世紀型の企業経営の姿であろう。

川村雅彦(かわむらまさひこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 ESG研究室長

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