今後の展望・・・下落リスクはまだ高い

それでは、当面の原油価格の展開はどうなるだろうか。それを考えるうえでも上記の要因(1)~(4)の動向が重要になる。

まず、増産凍結協議については、4月17日に何らかの合意に至る可能性が高いだろう。ロシア高官の発言によれば15カ国以上の参加が見込まれるとのことであり、一応、形としては増産凍結について幅広い産油国の合意が得られる可能性が高まっている。

ただし、問題はイラン、リビア、ブラジルといった増産の可能性が高い国々が参加しないとみられることだ。とりわけイランは欧米からの制裁解除を受けて急ピッチで増産する意向を示しており、これらの国々が参加しない増産凍結にどれだけ意味があるのかは疑問だ。世界の供給過剰緩和には大して効果がなく、イベント通過後は、「合意が無いよりはマシ」程度の評価となる可能性が高い。

これまで前のめりで買い材料とされてきただけに、利益確定の動きが優勢になると見ている。また、米国の利上げに関しても、今後は6月の利上げ観測が高まりやすく、原油価格の逆風になりそうだ。中国経済の下げ止まりもまだ先とみられ、原油価格の抑制に働くだろう。

従って、原油価格は一旦下落する可能性が高い。つまり、下落リスクはまだ高いと言わざるを得ない。増産凍結協議への懐疑的な見方が事前に広がれば、開催を待たずして調整に入るだろう。

なお、時間軸を延ばして考えると、一旦調整後は再び徐々に持ち直していくと見ている。原油価格が下がることで、米国の減産が進みやすくなるためだ。

もともとの採算レートが高いシェール業界は、長引く原油安で相当追い詰められており、今後も生産停止が予想される。さらに、季節要因としても、米ドライブ・シーズンを控え、5月以降は米国の原油在庫が取り崩されやすくなり、原油価格の下支えとして働きそうだ。

一方、上記のメインシナリオに対する下振れリスクシナリオも存在する。それは、増産凍結協議が不発に終わったり、米国の産油量が明確な増加に転じたり、中国懸念が再び緊迫化したりするケースだ。これらの組み合わせや度合いにもよるが、再び原油価格が30ドルを割り込む可能性もまだ残る。

逆に、上振れリスクシナリオ、つまり今後も原油価格が高値を維持し、そのままさらに上昇していくシナリオも考えられなくはないが、ハードルは高い。主要産油国が増産凍結に留まらず、協調減産を探る段階まで至れば可能なのだが、その可能性は現状殆どない。

また、原油価格がこのまま上昇すれば、需要が十分回復する前に休止中の米シェール油井が再稼働し、供給過剰がさらに強まることで原油価格の押し下げに働いてしまう。原油価格の上昇自体がその後の価格下落を招くということだ。

上記各シナリオの発生確率は、メイン6割、下振れ2割、上振れ2割程度とみている。

いずれにせよ、現在の原油価格は多数の要因や市場の思惑が絡み合って複雑な状況にあるため、不確実性が高い。昨年以降、原油価格は世界の金融市場を揺るがす一大テーマになってきたが、今後も目が離せない状況が続きそうだ。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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