日経平均の上値目途・下値目途
日経新聞に掲載されているPERから日経平均の前期(2015年度)EPSを逆算して求めると、1日時点で約1120円。これは前年度(2014年度)比4%減とすでに減益予想だ。資源価格下落に伴う減損処理で商社の最終損益が赤字に転落したことなどが反映された結果だろう。
このままいけば発射台が下がることになるが、そうすると前述した2016年度5%経常増益というのをそのまま当てはめるのは妥当ではない。下がった発射台を考慮すれば2016年度のEPSは前期見込み数字から伸びしろが大きくなる。保守的に見積もっても1200円が基本線だと思う。
PER15倍で日経平均は1万8000円。PERが16倍台後半まで拡大すれば2万円回復である。まったく自然で無理のない想定である。
下値の目途はどうか。2月の急落局面で割り込んだ1万5000円がいいところだと考える。その時に書いたレポートから引用しよう。
<業績に対する不透明感が強い局面ではPER(株価収益率)の有効性は高くないものの、株価から逆算すると、来期の予想業績として10%減益までは市場が織り込んだと言える。株価が1万5000円になって、標準のPER15倍を当てはめれば予想EPSは1000円だ。これは前期対比、約10%減益という水準である。
PERは元となる業績が安定性を欠いているので当てにならない一方、これまで企業が蓄積した純資産に対する倍率であるPBRは参考にできるだろう。
日経平均が1万5000円を割り込んだ12日に、日経平均のPBRは1倍を割れた。PBR1倍割れというのはリーマンショック後やアベノミクス相場が始まる前の極度の低迷期に戻るということだ。コーポレートガバナンス改革や異次元緩和などアベノミクスのすべてを否定するような水準への回帰は行き過ぎであろう。>(2月15日付け「 目先の底値に到達 」)
市場に流れる慎重論として、「2016年度10%超の2桁減益となれば、日経平均は1万3000円もあり得る」という見方がある。例えば、EPS1000円でPER13倍なら日経平均は1万3000円だから、数字のうえではないこともない。但し、そのシナリオが示現する可能性は低いか、あったとしても「瞬間風速」的につけるだけで、その水準が定着するとは思えない。
その理由の一点目は、株価評価として純資産の観点が欠けていることだ。PERだけがバリュエーション指標ではない。前述したようにPBR1倍が意識されるだろう。そもそも減益といっても、それは利益の伸びが加速するのか減速するのかであって、利益自体は生み出される。赤字になるわけではないので自己資本は毀損しない。生み出された利益は配当など外部流出を控除した部分が内部留保で積み上がり、自己資本に加わる。
日経平均の前期実績BPS(1株当たり純資産)は1万4965円だった。これに仮にEPSが1120円、配当性向30%として内部留保率70%を掛けた784円を加えると新しいBPSは1万5749円である。
日経平均が1万3000円になれば、PBRは0.8倍。市場全体の評価として解散価値を下回り、自己資本がこの先2割も毀損することを織り込むようなレベルまで株価が低迷する理由はない。下値はPBRの観点から支えられるだろう。万が一、2016年度10%超の2桁減益でEPS1000円となったとしてもPBR1倍を下値目途とした場合、1万5749円はPER15.7倍。おかしな数値ではない。
結論としてPERが切り上がって日経平均が値を保つ。
マイナス金利がさらに拡大すれば、バリュエーションは上昇するのが理屈だからである。PERは要求利回りの逆数で、要求利回りを構成するリスクフリーレートが低下(マイナス)になれば、PERは計算上拡大する。実際にマイナス金利を導入した国・地域で導入前と導入後の市場PERの平均を比較すると、マイナス金利導入後の平均のほうが高くなっていることが観察された。
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券
チーフ・ストラテジスト
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