海外資金のセクター選好

海外資金による日本国内の不動産取得額をセクター別にみたところ、特に選好されたセクターはみられず、全てのセクターで2015年の取得額が縮小していた(図表-4)。

たとえば、最近、最も投資家の関心を集めている(*3)ホテルも、2015年の海外資金による取得額は、約660 百万米ドルと前年比で約3割の縮小であった。2015年は訪日外客数が2,000万人に迫り、客室稼働率が全国的に過去最高を記録するなど、ホテルをとりまく環境は非常に良好だったものの、積極的な海外資金の取得対象にはならなかった。

また、リスク回避の動きは、機関投資家の主な投資対象であるオフィスセクターで特に顕著であった。オフィスについては、比較的成熟度の高い投資市場が形成されており、投資マインドやサイクルの変化が表れ易い。

2015年の海外資金による国内のオフィス取得額は、約4,300 百万米ドルと前年比約2割の縮小であったが、株価が下落した2015年8月以降、明らかに海外資金の動きが鈍化し、9月以降4ヶ月間の取得額はわずか約600百万米ドルに止まった。

さらに、住宅セクターにおいても、2015年の海外資金による取得額が約1,020 百万米ドルに止まり、前年比で6割以上も縮小した。2014年には米ブラックストーンが米GEから約1,440百万米ドルにも及ぶ大規模なポートフォリオを取得したため、例外的に大きな数値だったといえるが、2015年の取得額は2013年の数値も下回っていた。

52693_ext_15_5

もっとも、限定的には、インバウンド需要を意識したアジア資金の取得意欲が強く表れたケースもみられる。たとえば、アジア資金による日本国内のホテルの取得額は2015年も拡大が続いた(図表-5)。

ホテルのインバウンド需要の拡大は、ほとんどが中国やアセアンなど、アジアの訪日客の増加によるものとなっている。アジアの投資家にとっては、旅行会社とのネットワークを活かし、日本で取得したホテルをアジアから日本への旅行ツアーに組み込む戦略なども有効である。

さらに、アジア資金によるホテル開発用地の取得も目を引く(図表-5)。香港のグレートイーグルが自社ブランドのランガムホテルの開発用地として六本木の土地を取得したように、アジア企業が自社でホテルを企画、開発するケースもみられ、日本でのホテル事業が多様化しつつある。

52693_ext_15_6

ただし、ホテルと同様にアジアからのインバウンド需要を享受できるはずの商業施設については、今のところ、アジア資金による取得は本格化していない(図表-6)。

成熟経済のもと、一様な消費拡大が見込み難い日本では、厳しい競争下にある商業施設の運用は高度な専門性を要し、海外企業にとって容易なものではない。この分野においては、経験豊富な米国の投資ファンドによる取得や、欧米の小売チェーンやブランド企業による自社店舗用の取得などが多く、一方、アジア資金による取得は、アジア全域で展開するシンガポール企業などの一部に限られている。

52693_ext_15_7