おわりに

国内の不動産市場においては、株価が下落した2015年下期以降も、金融市場のようにリスク回避の動きは明確に認識されていない。たとえば、賃貸市況を代表する東京の賃貸オフィス市場では、三鬼商事によると、募集賃料の上昇が継続している(図表-10)。

また、不動産投資市場でも、金融市場とはある程度隔絶した市場として、株価が下落した後も当面は不動産価格が上昇し続けるとの楽観的な見方が少なくない(図表-11)(*4)。さらに、2016年2月のマイナス金利政策の施行以降、国内投資家にとって運用利回りの確保が一層難しくなっており、一部の投資資金が消去法的に不動産に向かうとの期待もある。

しかし、取引所で日々値付けされる株式とは異なり、不動産の取引データは十分ではないため、不動産価格動向の把握は難しい(*5)。そのため、不動産投資市場の把握においては、取引額の推移から市場の活性を確認することが重要であるが、上記のように、取引額は2015年に縮小に転じ、なかでも、海外資金による取得額の縮小が顕著であった。

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(*1)米ドル/日本円の為替レートが円安となった影響により、日本円ベースでは、2015年の国内の不動産取引額は約5兆円で約1割の減少であった。本稿では、海外資金の動きを中心に扱うため、金額については米ドル建てとしている。
(*2)増宮守「海外資金の国内不動産取得動向・2014年~投資市場の活況がリーマンショック前のピークに迫る~」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2015年3月17日
(*3)増宮 守 「景況見通しが一変、悲観が楽観を上回る~不動産価格のピークは15~18年と見方分かれる~第12回不動産市況アンケート結果」 ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年1月25日
(*4)増宮守「景況見通しが一変、悲観が楽観を上回る~不動産価格のピークは15~18年と見方分かれる~第12回不動産市況アンケート結果」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2016年1月25日
(*5)増宮守「不動産価格サイクルの先行的指標~ピーク感が強まる中、各指標の現状を確認~」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2015年8月28日

増宮守(ますみや まもる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

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