◆但し、悪循環のままの地域も多い

住宅価格は前述のとおり「半値戻し」したところだが、深セン市では2014年4月の直近高値より61.1%高い水準まで上昇するなど巨大都市を中心に10都市が(全70都市中)最高値を更新しており、バブルが再び膨張し始めた。一方、温州(浙江省)市では2011年8月の直近高値よりも22.7%安いレベルで低迷するなど下値不安が拭いきれない都市も多い(図表-15、16)。

中国政府は、下値不安の払拭できない多くの都市では住宅購入制限の緩和(頭金比率の引き下げなど)や税制優遇(不動産取得税、営業税)などで住宅販売を推進して在庫圧縮を支援する一方、深セン市や上海市などバブル懸念が再燃した都市では、住宅購入制限の強化や土地供給の積極化などでバブル再燃を防止しようとしている。

即ち、住宅サイクルは地域毎に2極化しており、それぞれの事情に応じて、住宅販売の促進とバブルの抑制という正反対の政策が同時に実施されている。従って、全国一律で同一方向に作用する金融政策の発動タイミングは極めて難しい状況におかれている。

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4.今後の注目点

2016年3月、中国では全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催された。全人代で想定された今年の経済環境としては、まずマイナス材料として過剰設備・過剰債務の整理があった。いわゆるゾンビ企業の淘汰である。そして、それに伴って生じる景気への負のインパクトを緩和すべく、財政赤字(対GDP比)を3%まで拡大して、成長率目標を6.5%~7.0%に設定したものと筆者は考えている(図表-17)。

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このまま景気が下ぶれせずに推移すれば、前述の住宅販売の促進とバブルの抑制という正反対の政策を同時に実施できるため、住宅サイクルの2極化は徐々に収束に向かうと思われる。

しかし、過剰設備・過剰債務の整理が本格化する中で、下半期にインフラ投資の財源のひとつである中央予算が残っていないようだと、景気が再び下ぶれする可能性もある。

その時、中国政府は住宅バブルの抑制を優先して財政赤字の拡大で対応するのか、それとも財政の健全性を優先して、住宅バブル膨張を許容する形で成長率を押し上げるのか、今後の景気動向と政策運営は要注目である。

三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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