三菱自動車の燃費不正問題は日本国内だけにとどまらず、海外にも大きな波紋を投げかけている。欧米のメディアによる報道はおおむね「第2のフォルクスワーゲン(VW)スキャンダル」といった感が強く、VWが引き起こした衝撃に世間の関心が薄れ始めた今、三菱自動車の不祥事は格好の標的となっているようだ。
各メディアは2度にわたる過去のリコール隠しなども引き合いにだし、「どのように不正が行われていたか」「何故不正を行う必要があったのか」といった経過から始まり、株価暴落の影響や今後の復興の可能性について論じたものまで、様々な反応を見せている。さしずめ偽造データ報道の対象が、排気ガスから燃費にシフトしたといったところだ。
VW報道と決定的に異なる点は、一面を飾る(飾った)両社代表取締役の写真かも知れない。VWが渦中の企業となった昨年9月、各国のメディアは深刻な表情を浮かべた当時のCEO、マーティン・ウィンターコーン氏の写真で見出しを飾ったが、今回の三菱自動車に関しては、こぞって相川哲郎代表取締役が深々と頭を下げた写真を掲載している。
英BBC報道の「謝罪は日本の芸術」という見出しが、欧米の両社あるいは両国に対する受け止め方の差を巧みに表現している気がしてならない。
英BBC「頭を下げるだけでは何も解決しない」
BBCは「日本という国に根付く問題への対応の仕方」に焦点をあてている。「頭を下げるほかに対処のしようがない時」というタイトルの記事では、謝罪を日本文化の一部ととらえ、不祥事を起こした企業のトップに立つ人物が「(例え自分に非がない状況であったとしても)頭を下げる責任を担う」と報じている。
昨年会計不祥事が報じられた東芝の田中久雄前社長も「深々と頭を下げて謝罪した」ことを例に挙げ、「最近日本では企業のトップがお辞儀をする機会が多いようだ」と皮肉たっぷりに日本を代表する国際企業の不祥事続きを批判。
それと同時に「恐らく三菱や東芝は頭を下げるくらいしか思いつかないのだろう」と、謝罪だけでは何一つ解決しない、消費者の信頼を回復する手助けにはならないことを仄めかしている。
VWとの温度差 三菱自動車の信用回復には懐疑的
VWのスキャンダルが世間にとっては「青天の霹靂」であったのに対し、三菱は2度のリコール問題の前科つきであることを欧米メディアは指摘している。スキャンダルから約8カ月が経過した今、VWの株価はゆっくりとではあるが回復の兆しを見せている。
データ偽造が明るみに出るまで、VWは9年間、三菱は20年間も消費者の信頼を裏切り続けた。改ざんの期間の長さで罪の重さが測られるわけではないが、20年という期間はあまりに長過ぎる。
資本力という点でも、VWは一大スキャンダルにも立ち向かうだけの勢力を維持していたが、日本で人気の軽自動車競争ではダイハツやスズキに大きく差をつけられていた三菱にとって「3度目の不祥事は致命傷になりかねない」という見方が強い。
海外の三菱軽自動車にも広がる疑惑
「問題となった車種が日本国内のみで販売されていた」という点に疑問を唱える声もあがっているが、米フォーチュン誌は三菱が米国式の燃費テストを採用していたことを理由に、「少なくとも米国で販売されている軽自動車に関しては、改ざんの可能性が低い」と報じた。
しかし「データ改ざんが日本国内だけで行われていたという三菱の主張は、国際的制裁を受けたVWのケースとは大きく異なる」と、世界的波紋を投げかけているにも関わらず、あくまで自国の閉ざされた空間内で事を収めようとする三菱の姿勢を、潔いものと見なしていないようだ。
ほかの日本車メーカーは火の粉を払うことができるのか?
今回のスキャンダルによって生じた猜疑心は、海を隔てて確実にほかの日本メーカーにも広がりつつある。日本の自動車メーカー間で熾烈な「燃費に優れた軽自動車競争」が繰り広げられていた事実から、BBCなどは情報源は明らかにしていないものの、「三菱以外の日本メーカーがプレッシャーの重さに耐えかねて、データを偽造していたという説もある」とまで報じている。
長年消費者が絶対的な信頼を置いていたドイツと日本の大手自動車メーカーによる裏切り行為が、社会に与えた影響は想像を上回る。
VWの火の粉がBMWやアウディといったほかのドイツメーカーに飛び散ったように、三菱の火の粉を避けることは困難だろう。ここでほかの日本車メーカーが潔白を証明できれば、日本車全体への不信感は不信感は払拭できるはずだ。「第2の三菱が世間を騒がせないように」とひたすら祈るだけだ。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)
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