子どもの数,世帯主の勤務先
(写真=ニッセイ基礎研究所)

はじめに

前回執筆した「父親・母親の年齢と出生率」に引き続き 、今回も日本の国が実施している大規模データを分析することによって、出生率上昇のための鍵を探ることにしたい。

前回はカップルの年齢差の縮小を背景に、両親ともの年齢と出生率には高い関係性が生じ、現在の日本では、母親のみならず父親も若いほど、出生率が上昇する社会となっていることがデータから読み取れた。つまり、少子化対策の視点から見るならば、若いカップルが希望する結婚・妊娠を応援する社会への改革が急務であることが示された。

今回は国の大規模データをもとに、子どもの数とその親の勤務先をみることで、少子化対策に資する知見を得ることが出来るか考えてみたい。

親の勤務先は子どもの数にどう影響しているのか。

まずは、最新の2014年厚生労働省「人口動態統計」調査結果を用いて、第一子から第五子以降出産の際の「世帯主の就業先状況」を俯瞰する。

大きな企業に勤務する親の家庭ほど多子家庭に・・・・なってはいかない社会

図表1は調査年に生まれた子どもの総数に占める、親の就業状況の割合をグラフにしたものである。従業員100人以上の中・大企業(*1)に勤務している親の子どもが約4割、100人未満の小企業に勤務している親の子どもが約3割、自営業の親をもつ子どもが約1割となっている。

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次に図表2を見てみよう。総数の中で、「第一子」「第二子」として生まれた子どもの出産の際の親の就業先状況をみたものである。あまり総数と変化がない親の就業先割合となっている。

しかしこの割合に、第三子以降で大きな変化が現れる。

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図表3は、第三子・第四子・第五子以降の出産時点における、親の就業先状況をグラフ化したものである。

第三子では、親が小企業・自営業に従事する割合が微増し、一方、中・大企業の割合が減少する。この傾向が、第四子・第五子以降ともなると加速化し、第四子・第五子以降の子どもをもうけている家庭では、その親が小企業に従事している割合が約4割と、トップに躍り出る。

中・大企業で就業している親は第一子では約4割を占めているが、5子以上もうけている多子世帯においては、約2割と、実にその割合を半減させている。

図表2と図表3からは、子どもの数に影響されることなく小企業と農家の親の割合は一定規模を維持しているが、中・大企業の親の割合は子どもの数が増えるにつれて大きく減少していくことがわかる。

また、自営業に関しては第一子では6.9%であった親の割合が第五子以降では14.6%とその割合を倍増させている。

「子どもを持つインセンティブ(誘因・動機となるもの)」という視点で見るならば、データからは多子家庭への誘因が中・大企業に親が勤務する世帯においては、小企業・自営業のそれよりも低くなっている、と思われる。

一般的には、親が中・大企業に勤務している家庭の方が「経済的には安定した家庭」というイメージがあり、より多子家庭の形成に積極的になるのではないかと思われがちであるが、現実のデータはそうはならなかった。

むしろ、中・大企業に親が就業する世帯は、その他の勤務者世帯よりも多子家庭の形成に消極的な傾向にあるという結果が現れたのである。

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なぜ、経済的に安定しているとみられる家庭のほうが子どもを沢山持つインセンティブが低くなるのか。一つ、興味深いデータを紹介したい。

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(*1)図表1-3においては、わかりやすく説明するために以下の用語変換を行っている。

「中・大企業」:人口動態統計上の区分名 常用勤労者世帯(I)
最多所得者が企業・個人商店等(官公庁は除く)の常用勤労者世帯で勤め先の従事者数が1人から99人までの世帯(日々または1年未満の契約の雇用者はその他の世帯)

「小企業」:人口動態統計上の区分名 常用勤労者世帯(II)
最多所得者が常用勤労者世帯(I)にあてはまらない常用勤労者世帯及び会社団体の役員の世帯(日々または1年未満の契約の雇用者はその他の世帯)
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