金融市場(5月)の動きと当面の予想

◆10年国債利回り

●5月の動き 月初▲0.1%台前半からスタートし、月末も▲0.1%台前半に。

月上旬は、日銀オペによる需給逼迫観測が金利抑制圧力となり、▲0.1%台前半での推移が続く。10日には30年債入札への警戒から一旦▲0.1%へとやや上昇したが、翌11日以降は再び▲0.1%台前半に戻って膠着した推移に。

その後、米FOMC議事要旨発表を受けた早期利上げ観測によって米長期金利が上昇、波及したことで19日には▲0.0%台後半まで上昇したが、翌20日には日銀オペの結果を受けて再び▲0.1%台前半に低下。以降、月末にかけて▲0.1%台前半を中心とする推移が継続。

●当面の予想

今月に入っても▲0.1%台前半での小動きが継続。長期金利は長らく、日銀のマイナス金利幅(▲0.1%)を挟んだ展開が継続している。従って、今後のカギは日銀の追加緩和となる。

筆者は6月半ばの決定会合で、マイナス金利の0.1%拡大を伴う追加緩和を予想しており、その場合、長期金利はもう一段低下することになる。一方、米金利が大きく上昇すれば本邦金利に波及し低下が抑えられるが、米国の継続的な利上げが織り込まれる必要があり、当面は見込みがたい。

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◆ドル円レート

●5月の動き 月初106円台前半からスタートし、月末は111円台前半に。

月初、日銀の追加緩和見送りの余波や米為替報告書における監視リストへの指定を受けて2日に106円台前半を付け、連休中の海外市場では一時105円台まで円高が進行。その後は日本政府高官による円高けん制や利益確定で円が売られ、6日には107円台を回復。さらに麻生財務相による介入用意発言もあり、10日には108円台を回復。

以降、しばらく108円台での推移が続いたが、原油高に伴うリスク選好の円売りで17日に109円台を回復。さらにFOMC議事要旨を受けて早期利上げ観測が高まったことで、19日には110円台を付けた。その後は実需の円買いもあって109~110円台での展開となったが、27日のイエレン議長講演を受けた早期利上げ観測でドルが買われ、月末は111円台前半に。

●当面の予想

今月に入り、消費税引き上げ延期の表明がされたことに伴う利益確定の円買いや、英国のEU離脱への警戒に伴うリスク回避の円買いから、足元は108台後半まで円高が進んでいる。

目先は本日の雇用統計結果と6日のイエレンFRB議長講演で多少上下しそうだが、最大の焦点は15日の米FOMCで利上げが決定されるかどうかになる。6月利上げは市場の織り込みが足りず、また英国のEU離脱が不透明なことから利上げ見送りを予想するが、同時に7月利上げの可能性を織り込ませる何らかのガイダンスが発信されると見ており、ドル安材料にはならないだろう。

日銀は6月に追加緩和に動くと見ているが、円安材料としてのイメージが希薄化しており、為替への影響は限定的になる。ドル円は当面108~112円程度での一進一退を予想。

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◆ユーロドルレート

●5月の動き 月初1.14ドル台後半からスタートし、月末は1.11ドル台半ばに。

月初、米経済指標の低迷を受けて、3日に1.15ドル台後半まで上昇したが、雇用統計前に持ち高調整が入り、5日には1.14ドル台に下落。その後はリスク選好のユーロ売りが入り、10日に1.13ドル台を付ける。しばらく1.14ドルを挟んだ展開となった後、良好な米小売指標を受けて13日には1.13ドル台半ばへ。

さらにFOMC議事要旨を受けて米早期利上げ観測が強まったことで、ドル高基調となり、18日には1.12ドル台、24日には1.11ドル台後半に下落した。イエレン議長講演を受けた米早期利上げ観測でさらに下げ、月末は1.11ドル台半ばで終了。

●当面の予想

今月に入り、ポジション調整でややユーロが上昇した後、ECB理事会後のドラギ総裁発言を受けた追加緩和観測でやや下落、足元は1.11ドル台半ばで推移している。今後は米利上げと英国のEU離脱問題が焦点になる。

既述のとおり、米国の6月利上げは見送られるが、同時に7月利上げの可能性を織り込ませる何らかのガイダンスが発信されると見ており、ドル安材料にはならないだろう。ただし、23日に行われる英国の国民投票で残留が決定、経済的に繋がりが強いユーロ圏への悪影響が回避されることでユーロに買い戻しが入り、やや上昇すると見ている。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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