日銀,追加緩和,見送り
(写真=PIXTA)

6月15・16日の日銀金融政策決定会合は、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させるとともに、日銀当座預金残高の金利を-0.1%とする現行の緩和政策の継続を決定した。

金融政策の限界、マイナス金利の不評、アベノミクスの評価が悪くなる懸念

一つ目は、日本で開催されたG7では、グローバルな景気回復力の強化のため、金融政策の限界と為替操作の禁止が意識され、財政政策と構造改革の役割が大きいことが再確認されたことだ。安倍首相は、消費税率引き上げの見送りと7月の選挙後の景気対策の実施を表明した。各種世論調査でみても、財政政策を柔軟に活用しようとする安倍首相の判断に対する国民の評価は高いようだ。

二つ目は、マイナス金利政策の評判は、金融機関だけではなく、国民の間でも芳しくないことだ。更に、7月の参議院選挙に向けた自民党の選挙公約では、デフレ完全脱却は引き続き目指すが、2%に向けて物価上昇を加速させる方向性はかなり弱まり、金融緩和の役割に対する政府・自民党からの期待は縮小している。民進党は、マイナス金利政策の是正を選挙公約としたため、日銀の追加金融緩和が政治論争の種となり、秋の臨時国会での景気対策の議論を複雑にする恐れがある。

三つ目は、既に1月に先行きのリスクに備えた追加金融緩和は行っているため、追加金融緩和があるとすれば、景気判断から「回復」という表現を消したり、「2017年度中」としている2%の物価目標の達成時期の予想を更に後ずれさせる時だろうが、その場合、アベノミクスは失敗したとの評価が広がるリスクがあることだ。

日銀は、物価の判断を「当面小幅なマイナスないし0%程度で推移する」とし、短期的な物価下落圧力を認め下方修正した。しかし、雇用や所得環境は引き続き改善しており、「物価の基調は着実に高まり、2%(の目標)に向けて上昇率を高めていく」と引き続き考えているようだ。

そして、これまで弱かったGDPや鉱工業生産は底割れを回避し、持ち直しの動きがみられている。日銀の景気判断は、「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調として緩やかな回復を続けている」され、変更はまったくなく、「回復」の表現を維持した。

マイナス金利の浸透待ち、2000年代の二の舞回避

四つ目は、日銀はまだマイナス金利の効果が市場に浸透している最中、または功罪の点検中であると考えているとみられることだ。日銀は1月にマイナス金利付量的質的金融緩和に踏み切り、量と質に加え、金利という緩和手段を日銀は手に入れたとされる。

しかし、国債発行に占める日銀の買い入れの割合は極めて大きく、日銀が主要企業の大きな株主になってしまっている状況である。実際のところ、マーケットはもう一回の緩和の機会を日銀が取り戻しただけと考えているとみられる。その一回の緩和の機会が使われれば、またマーケットは緩和手段の限界を意識し始めるリスクがある。

「量」や「質」の緩和を強化する前に、貸出資金支援基金の金利をマイナス化させるなど、マイナス金利政策の制度をまだ拡充できる余地がある。グローバルな景気・マーケットの不安定感は収まってきているが、米国利上げの再開、または英国のEU離脱を問う国民投票の結果などにより、再び不安定感が大きくなるリスクに備えて、日銀は緩和策を温存していると考えられる。

五つ目は、量的金融緩和でマネタイズすることによって効果が生まれるネットの国内資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が消滅してしまっていて、2000年代と同様に、理論的にも追加金融緩和の効果は限定的な状況になってしまっていることだ。

追加金融緩和をしても、円安・株高の動きが小さい、または一時的であれば、日銀の金融政策に対する信頼感が喪失してしまうリスクがある。よって、財政政策の拡大が、ネットの国内資金需要を復活させ、既存の金融緩和の効果を強くし、物価の持ち直しが強くなっていくことを、日銀は辛抱強く待つと考えられる。

追加緩和がメインシナリオになる条件

これら五つの理由により、日銀が追加金融緩和を果敢に実施する環境にはないように思われる。追加金融緩和の確率は引き続き25%程度で、メインシナリオではないと考える。

ただ、ドル・円が105円を次回の7月28・29日の決定会合まで持続的に下回れば、追加金融緩和の確率は40%に、そして英国のEU離脱の問題を含めグローバルな景気・マーケットの不安定感が極めて強くなり100円を下回るリスクが大きくなれば追加金融緩和がメインシナリオになろう。

追加緩和の手段としては、マーケットの限界論を払拭するため「量」・「質」・「金利」のすべての手段を使う必要があり、マイナス金利の拡大、及びマネタリーベースの年間約80兆円の増加から約85兆円(ETFの2兆円程度の増額を含む)へ引き上げが考えられる。

その場合、国民、金融機関、そして国会からの批判は強くなり、政策目標は政府と日銀が共同で設定するが、方法論は日銀の専権事項であるという原則の論争が強くなるリスクがある。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券東京支店調査部チーフエコノミスト

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