自治体の権限拡大や規制緩和など地方分権改革に関する15の法律をまとめて見直す分権一括法が、参議院本会議で可決、成立し、地方自治体の窓口で求人情報を紹介できる「地方版ハローワーク」が設置できるようになった。これを後押しする改正職業安定法は8月までに施行される。
地方版ハローワークは国のハローワークとの連携などに課題も残るが、求職者に求人情報と生活支援サービスを一体として提供できる。移住者の受け入れや企業誘致と連動させた雇用対策など地域の事情に応じた取り組みも期待されている。
移住者受け入れなどに自治体は期待
厚生労働省によると、地方版ハローワークは自治体が無料で職業紹介する施設で、これまで必要とされてきた国への届け出義務が廃止された。市役所の窓口などに自由に設置でき、職業紹介がしやすくなる。
ハローワークは全国に544カ所あり、いずれも厚労省が管轄している。自治体が運営する職業紹介事業所は約370カ所あるものの、事業計画書を国に提出しなければならず、自治体の負担が大きかった。
自治体が自由に設置できることでさまざまな活用が想定される。例えば、生活保護の受給を求めてきた若い人に適切と思われる仕事を紹介することができる。
UターンやIターンに力を入れている自治体だと、地元の求人情報を集め、国のハローワークを通じて都市部で働く人に紹介することも可能だ。国のハローワークが設置されていない地域でも、積極的に求人情報を提供できるようになる。
今後、国と地方で求人情報の共有化を進め、UターンやIターン就職など地域に応じた対応を進めるが、国のハローワークが現在、自治体へオンラインで提供している求人情報は、全体のざっと7割ほど。各ハローワークは求人を受け付ける際、自治体に情報提供して良いか確認を徹底し、情報提供量を増やしていくという。
石破茂地方創生担当相は記者会見で「国と地方のハローワークがうまく連携し、住民の利便性が確実に増すよう今後も取り組みたい」と新制度に期待感を示した。
全国知事会が国に創設を要望
ハローワークの職業紹介事務はもともと、国家公務員が都道府県庁で特定の事務をする地方事務官制度のもとで進められ、都道府県知事が指揮監督していた。
しかし、第1次地方分権改革で「地方事務官制度では責任の所在があいまいになる」などと批判の声が上がった。職業紹介を自治事務として自治体に置くか、国の直接執行事務とするかで議論した結果、国の事務とすることになり、2000年に都道府県労働局が設置されている。
これに対し、全国知事会は二重行政の解消や行政の効率化の観点から、国の出先機関の地方移管を強く主張、最重点分野として国に要望してきた。しかし、厚労省や経済界、労働界は全国一斉の職業紹介や雇用保険、労災保険の適用、給付に支障が出かねないなどとして反対している。
このため、全国知事会は2015年11月、折衷案として地方版制度の設置を石破地方創生担当相に要請した。地方版ハローワークで実績を積み重ねたうえで、あらためて国に移管を求める狙いもある。
連携が不十分だと文字通り二重行政に
ハローワークによる職業紹介は、順調に成果を上げているわけではない。3月の全国職業紹介状況を見ると、月間の有効求職者数196万人に対し、有効求人数は265万人。有効求人倍率(季節調整値)は1.30だが、就職件数は20万件にとどまっている。仕事を探している人が就職できた割合は10.2%、企業が働き手を確保できた割合は7.6%だった。
求職者の中には失業保険の受給中で働く意思のない人がおり、求人数には頼まれて求人票を出しただけのカラ求人が含まれる。このため、正確に実態を反映しているといえない面もあるが、10%前後の数字では職業紹介事業が十分に機能を果たしているとは思えない。
最近は民間の人材ビジネスが急速に拡大したため、転職者の約3割が民間求人広告経由となり、ハローワーク経由の約2割を上回っているといわれている。特に大学生の就職活動は、インターネットのシステムを構築した民間事業者の独壇場に見える。
ハローワークでは、事務職を希望する人が多いのに対し、建設や医療、介護系の求人が増える雇用のミスマッチも起きている。人口減少が進む地方では、このミスマッチが労働力不足に及ぼす影響は大きい。
自治体がそれぞれ独自の地方版ハローワークを持てば、それがカンフル剤となり、国のそれに活気を与える可能性がある。しかし、国と地方の連携が不十分だと、文字通り二重行政の弊害が生じるだろう。
国と一部の自治体はこれまで、業務の一体的な実施を試してみたが、寄り合い所帯のために互いの意思疎通が図れず、調整が円滑に進まなかったという反省点が、全国知事会から出されている。
国と自治体がそれぞれの持ち味を生かして雇用対策に乗り出す形は、求職者にとって心強いが、それを生かすも殺すも国と自治体の連携にかかっている。地方版ハローワークが実のある制度になるかどうか、国と自治体の真価が問われるのはこれからだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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