5日17日、千葉市が「殺人事件が起きた物件」として公売にかけた10LDKの豪邸が、1111万1100円で落札されたことが明らかになった。このニュースに驚かれた方も多いことだろう。
警察庁の統計「平成28年2月『犯罪統計資料』」によると、平成27年の殺人事件の認知件数は933件。同じく「平成28年3月『平成27年中における自殺の状況』」では自殺者数は2万4025人となっている。
もしあなたが、知らずに「殺人事件等のあった不動産」を購入してしまったときは、どのように対処すれば良いのだろうか。
購入した物件が、もしも殺人事件等があった物件だったら…
知らずに「殺人事件等のあった不動産」を購入した場合、可能性としてできることは売主に対する契約解除請求及び損害賠償請求、そして宅地建物取引業者に対する損害賠償請求等が挙げられる。
売主に対して契約解除及び損害賠償請求可能な根拠は、民法566条・570条の「瑕疵(かし)」によるものだ。「瑕疵」とは、いわゆる欠陥・欠点のことである。具体的には、売買契約の際、売主にしか分からない事実を買主に情報提供する必要があり、買主が「瑕疵」について知らずに購入した場合は、売主に瑕疵担保責任を追及できることになっている。
「瑕疵」には雨漏りやシロアリ被害等の「物理的瑕疵」の他、自殺や殺人事件のあった事実等の「心理的瑕疵」等も該当する。
実務上では、売主が知りうる事実を買主に情報提供する意味で「物件状況等報告書」を取り交わすケースが一般的であるが、仮に殺人事件や自殺等の事実があったにもかかわらず、「物件状況等報告書」等に記載がなく、買主がその事実を知らずに「殺人物件等のあった不動産」を購入すれば、売主に対して瑕疵による損害賠償請求、場合によっては契約解除できる可能性もあるのだ。
「心理的瑕疵」は明確な基準がない
ただし、過去の判例をみると、存在が明らかである「物理的瑕疵」と異なり、「心理的瑕疵」は取引当事者の主観的事情に左右されるものであり、「瑕疵」に該当するかどうかについての明確な基準がないため、事件や事故からの経過年数等によって「瑕疵」が否認されたケースもある。
過去の「瑕疵」が認められた判例の一例としては、売買された土地上に存在し、売買時点では取り壊された建物内で過去に殺人事件があったことが、売買の目的物である土地の「隠れた瑕疵」に当たるとして、売主の瑕疵担保責任が認められた判例(大阪高裁:平成18年12月19日判決)や、売買契約書に建物の瑕疵担保責任の免責の記載がある場合でも自殺のあった物件で売主が瑕疵担保責任を負うとした判例(浦和地裁川越支部:平成9年8月19日判決)等が挙げられるので参考にしていただきたい。
「殺人事件等のあった不動産」についての宅地建物取引業者の説明責任
宅地建物取引業者は、買主に対して宅地建物取引業法第35条「重要事項の説明」が義務付けられている。また、宅地建物取引業法第47条において、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為は禁止されている。
つまり、宅地建物取引業者は買主に対して殺人事件等があった場合にはその事実を説明する義務があるのだ。
過去の判例では、売買時には更地(建物が壊し済み)であった事案において、20年以上前に存在した土地上の建物内の自殺に関しても説明すべき事実にあたり不法行為にあたるとした判例 (高松高裁:平成26年6月19日判決)が一例として挙げられるので参考にしていただきたい。
知らずに「殺人事件等のあった不動産」を購入した場合の対処法
知らずに「殺人事件等のあった不動産」を購入してしまった場合の対処法としては、一人で悩まず、各都道府県の宅地建物取引業を管轄する「相談窓口」や、一般財団法人不動産適正取引推進機構、独立行政法人国民生活センター、法律の専門家である弁護士等に相談するのが得策である。
峰尾茂克
THE FP コンサルティング
代表取締役
1級ファイナンシャルプラン二ング技能士、CFPR、宅地建物取引士。 TV・ラジオ出演の他、新聞・マネー雑誌の取材協力をはじめ、資格の学校 TAC においてFP養成講座講師を務める。企業におけるマネーセミナー、個別相談等で多忙な毎日をおくる。主な著書に『フグ田マスオさん家を買う。』(河出書房新社)、共著に『マイホームで年金をつくる』(評言社)等。