BREXITの金融システムへの波及

◆欧州のリスク:一部の国の財務は脆弱。中でも、イタリアが最大のリスク

EU域内では、アイルランド、ポルトガル、ハンガリー、イタリア等が財務的には脆弱である(図表4)。
中でもイタリアは、不良債権の総額は約30兆円と欧州の中でダントツである(図表5)。貸出に対する不良債権の比率は16.8%と日本の金融危機時を上回る高い比率となっている。引当金は計上されているが、不良債権額の約半分程度であり、残りは今後の損失に繋がりやすい。

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通常、銀行の発行する債券は機関投資家が保有することが多いが、イタリアでは、20兆円余り(2,000億ユーロ)の銀行債券が個人によって保有されている。欧州危機時に優遇税制を与えることで、これらの債券を個人に引き受けさせたためだ。昨年は、小規模銀行の経営難でこうした債券に損失が発生し、自殺者まで出たと報じられている(2015/12/10 BBC, Reuters等)。

イタリア政府は、今年に入り様々な不良債権処理等を進めようとしているが、EUとの関係ではストレートには進まない可能性がある。

EUは、今年から、政府が民間銀行を独自に救済することを原則禁じ、銀行債券保有者などに一定の損失負担を求めるようになった。今年からEU共通の救済基金が始動し、EUメンバー国の銀行は、経営難ではこの基金を統一ルールの下で利用しなければならないという仕組みができたためだ。

イタリアでは、上記の通り個人の銀行債券投資が大きいため、このような制約のマイナス影響が国民全体に及ぶ可能性がある。なお、27日の報道では、イタリア政府はEUに対し銀行支援を認めるよう請求する可能性があるとしている。

このようなEUルールに対する反対意見も多いが、個別に例外措置を認めたとしても、ルールの抜本的な見直しの気配はまだみられない。国民感情がこのような問題に煽られた場合、イタリアのEUへの反発は強まるだろう。

◆EU独自規制の問題:BIS以上に厳格

BREXIT前から、欧州の金融規制や金融税制はBIS以上に厳しく、景気へのマイナス面が懸念されていた。ECBが金利を下げても貸出の拡大が鈍い理由の一つである。

もし、EUの"呪縛"から逃れられれば、こうした制限も軽減される。今のところ、それほどの重石に感じられているわけではないので、規制自体がEU離脱の火種になるとは考えにくいが、何か別の要因で離脱が議論される時には、離脱を支援する要因の一つとなるだろう。

逆に、こうした反EUの動きからEUが規制を甘くする可能性もある。しかし、その場合、将来的な銀行救済のコストが上昇する可能性があるため、長期的にはプラスとは言い切れない。

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