◆日本への影響は限定的。但し、過去に比べて海外リスクは膨張した

日本の事業法人の場合、英国との取引のウェイトは相対的に小さいことから、円高以外の要因については深刻な問題にはなりにくそうだ。

一方、金融取引についてはもう少し影響が大きそうだ。英国および欧州の保有資産の目減り、取引先銀行のリスク拡大、ドル円のスワップ・コストの上昇など様々な面で影響が生じるだろう。

‐ 英国への投資等保有資産の目減り

邦銀から英国への与信額については、欧州外では米国に次ぐ世界第二位の規模ではあるが、20兆円程度(最終的に英国のリスクとなっている与信の合計)と大きくはない(図表7)。

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但し、欧州全体に飛び火した場合、インパクトは極めて大きくなる。16/3月末の残高は約85兆円(8,479億ドル、最終リスクベース)に上る。一時期は貸出を抑制していたが、この1年程度は、経済の安定化からやや増加傾向にあった(図表8)。

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‐ 外貨調達コスト

邦銀の外貨調達の内訳をみると、顧客預金の割合は3分の1程度に留まり、残りは何等かの形で市場リスクにさらされている(図表9)。特に近年は、円をドルに転換する時のコストである「ベーシス・スワップ」が大幅に上昇、欧州危機に次ぐレベルとなっている(図表10)。

仮にベーシス・スワップが50bp上昇し、それが貸出に転嫁できない場合、銀行の調達コストは、100兆円程度の大手行の海外貸出全体に対し、1600億円程度の年間コスト上昇要因となりうる(100兆円x33%x0.5%)。

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欧州危機の頃に比べて、海外の貸出は、リーマンショックの頃から7割程度増加している(図表11)。預金も増加してはいるが、運用目的で邦銀に預けている金額も多い模様で、これらは逃げ足が早い資金である。中央銀行の資金供給があるため資金がショートするようなリスクは殆どないが、ドル調達コストが上昇すれば、利益への影響は過去の危機時よりはるかに大きくなる可能性がある。

なお、6月28日に行われた日銀の米ドル資金供給オペレーションでは、14.75億ドルが落札された。昨年6月末の5.2億ドルから急増しており、銀行の安定資金調達ニーズの強さが伺われる。

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- 英国から欧州大陸への拠点のシフト

シングル・パスポートの喪失で、特に英国が支店ではなく現地法人となっているSMFG等では、EU域内の大陸欧州に移すことを検討する必要が出るだろう。大きな影響ではないが、新たな拠点の整備等相応の作業やコストが生じると思われる。

なお、英国は2014年に、Fintech産業を国として支援すると宣言し、革新的な金融企業を後押しする体制を整えていたが、今後の政治的な動きでどのような影響が出るのかも注目される。