本稿の目的~日本の大企業で人材育成がうまくいかないのはなぜか
日本の大企業は、新卒一括採用における競争力も高く、採用時点では企業が求める人材を相対的に確保しやすいはずである。また、日本の大企業においては、効果的・継続的な人材育成を可能にし、従業員のモチベーションや企業に対する帰属意識の向上等につながるとされる長期雇用が根付いている。
にもかかわらず、こうした日本の大企業において、人材育成が決してうまくいっていない現状をどう受け止めれば良いのだろうか。
厚生労働省「能力開発基本調査」で人材育成に関する問題の有無をたずねた結果を、従業員数1000人以上の企業についてみると、「問題がある」割合は2009年度の63.0%からさらに上昇し、2014年度には72.9%を占めている(図表1)。
東証一部上場企業を対象として2013年にリクルートワークス研究所が実施した調査をみても、「特に重要な人事課題」(複数回答、3つまで)として「次世代リーダーの育成」(44.5%)、「グローバル人材の育成」(36.6%)が上位2位にあげられており、とりわけ次代の経営を担うリーダー人材、グローバルな事業展開の核となる人材といった、いわゆる幹部候補の育成が多くの企業で課題とされている(図表2)。このように、日本の大企業においては人材育成に問題があり、とりわけ幹部育成がうまくいっていない。
本稿(*1)では、日本の大企業において、なぜ人材育成がうまくいっていないのかについて改めて考えてみたい。人材育成に問題があるとされながら長年その問題が解決されない背景には、人材育成の重要性を理解しながらも解決に向けて踏み出せない、何らかの「ジレンマ」を企業が抱えている可能性が高い。
人材育成がうまくいっていない理由として、既存研究のなかでもさまざまな要因があげられているが、本稿では、これらの中で筆者が特に重要だと考える要因を「3つのジレンマ」として整理し、対応の方向について考えてみたい。
なお、本稿では人材育成について考察するが、内容によって幹部育成に焦点を当てる。ここでいう幹部育成とは、次世代リーダーやグローバル人材といった幹部候補の育成を指し、経営幹部手前の段階だけでなく、新卒入社から経営幹部に至るまでの選抜・育成のプロセス全体を視野に入れる。
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(*1)本稿での考察にあたっては、日本人材マネジメント協会(JSHRM)「人事の役割」リサーチプロジェクト(2013年後半~)での議論が大いに参考になった。記してメンバーおよび関係者の皆様に謝意を表したい。また、筆者の考察にヒントをくださった匿名の実務家の方々にも、この場を借りてお礼申し上げたい。なお、本稿における主張は筆者の見解であり、本稿に誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
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