(写真=PIXTA)
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要旨

わが国の個人投資家の間では、オーストラリアドル(以下、「豪ドル」と表記、米ドルは「ドル」と表記)が根強い人気を持っている。家計の保有率等の包括的な統計は無いが、各種金融機関などが豪ドル建ての商品(預金・投資信託・債券など)を常に幅広く取り扱っていることからも、その人気の高さがうかがえる。

このため、過去に豪ドルへの投資を実際に行った投資家や検討した投資家は多いとみられるが、投資を行っていた場合はどのような結果となっていたのだろうか?

豪ドルに投資する意味合いや投資家に求められる姿勢、今後の豪ドル投資を考えるうえでのポイントと併せて考えてみたい。

豪ドルに投資することの意味合い

1|魅力は高金利だが、金利は低下基調

まず、最初に豪ドルに投資することの意味合いを考える。豪ドル投資の魅力は何よりその金利の高さである。直近のオーストラリア(以下、「豪州」)の長期金利(10年国債利回り)は2.0%と、ブラジルやロシア等の新興国よりは低いものの、先進国では最高水準にある(図表1)。

ただし、豪州の長期金利も過去からの推移では大きく低下している。足下の水準は直近ピークであった2008年5月(6.5%)の1/3に満たない(図表2)。

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豪州の長期金利が低下基調にある直接の原因は中央銀行であるRBA(Reserve Bank of Australia)が利下げをしてきたためである。RBAはリーマンショックを受けた08年後半から急激な利下げを実施、その後は一旦利上げに転じたものの、11年終盤からは再び利下げを断続的に実施しており、直近にかけての利上げ回数は計11回、利下げ幅は3.0%に及ぶ。そして、直近の政策金利は1.75%と過去最低水準にある(図表3)。

そして、RBAによる大幅な利下げの背景には、豪州の冴えない景気・物価情勢の存在がある。

豪州は世界有数の資源国で、特に鉄鉱石やアルミ原料であるボーキサイトの2015年生産量はそれぞれ世界シェア25%、29%に達する(図表4)。原油やガスのシェアは低いが、石炭・金・レアアースなどでも1割程度のシェアを有する。従って、豪州の輸出品目を見ても、鉱物・燃料系が全体の6割を占め、特に鉄鉱石(25%)、石炭(14%)の2大品目で全体の4割を占める(図表5)。

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このように資源依存度が高い豪州経済は、2000年代に世界的な資源ブームによる資源価格高騰の追い風を受けてきた。しかし、中国経済の減速などを受けて2011年から鉄鉱石・石炭の国際価格が大きく下落したため(図表6)、交易条件が悪化し、豪州景気の逆風となった。

この結果、豪州の実質経済成長率は減速した。リーマンショック前まで概ね3%~4%のレンジを中心に推移していたが、ここ数年は、2%~3%のレンジへと水準が切り下がっている(図表7)。景気の低迷と通貨高の影響で物価上昇率にも低下圧力がかかり、RBAは利下げによるテコ入れを繰り返すことになった。

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2|為替変動リスクは主要先進国通貨で最大

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次に、豪ドル為替レートの推移を確認すると、6月28日時点の豪ドル円レートは1豪ドル=75.9円で、60円台であった2000年代初頭に比べれば高いが、10年前の06年6月末時点の1豪ドル84.7円からは1割程度低い水準にある(図表8)。

豪ドル為替レートの特徴は、資源国通貨だけに、資源価格との連動性が強いことが挙げられる。代表的な国際商品指数であるCRB指数と豪ドルの対ドルレートの間には、極めて強い相関関係が確認できる(図表9)。

また、豪ドルの対円レートは、従来、日豪金利差(豪金利-日金利)との連動性が極めて強かった。2012年終盤以降は、安倍政権が発足し、日銀が異次元緩和に踏み込んだため、金利差で説明できる以上の円安が進行し、日豪金利差と為替の動きの間の関係性は希薄化したが、それでも正の相関(相関係数0.22:12年7月~16年5月の月次)を保っている。従って、豪州金利低下に伴う日豪金利差の縮小が円高豪ドル安圧力として働いてきたと言える(図表10)。

豪ドル円レートの10年間の推移を見ると、09年のリーマンショックまでは資源ブームによる資源価格上昇に伴って円安豪ドル高に、その後リーマンショックで急激な円高豪ドル安に見舞われたが、その後は世界経済の危機からの回復に伴う資源価格の持ち直しを受けて再び豪ドル高に。

2013年~14年には、日銀の異次元緩和に伴う急激な円安で円安豪ドル高がさらに進み、1豪ドル100円を超える場面もあったが、15年以降は資源価格下落とRBAの利下げに伴う豪金利低下に押され、直近では70円台半ばにまで下落している。

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