「感情って難しい」−−。
そう思ったことはないだろうか。怒りや不満、不安といったネガティブな気持ちは、仕事をしていれば誰しもが抱く当たり前の感情である。同時に我慢はもちろん、表に出しても人間関係が悪化してストレスになるので厄介でもある。また自身の感情に左右されず、職場であるべき正しい振る舞いを続けていると、気付かずにストレスを溜めてしまい、うつなどの心の病を患いかねない。
実は、感情のコントロールのカギは心に余裕を保つことにある。今回はそのための「3つ鉄則」を紹介する。どれも上手にネガティブな感情と付き合う方法として、カウンセリングに来られる方の社会復帰にあたってアドバイスしているものなので、ご自身のストレス対処のみならず、職場のメンタルヘルスの1つとして取り入れて欲しい。
正しさはストレスを生む
1つ目は「正しさより賢さ」なのだが、まず「感情を抑えて、正しい振る舞いをする」時の頭の中のメカニズムから説明したい。
人は、何か嫌なことがあると、(1)ネガティブな感情が生じる、(2)その感情をいけないものとして否定する、(3)立場や相手との関係を考慮し、理性で正しい行動を選択する、というプロセスを踏む。
これは親子のやり取りをイメージすると分かりやすい。子供の頃、友達とケンカをして泣きながら帰宅する。だが親に言い分を聞いてもらえず、「謝ってきなさい」と頭ごなしに怒られ、渋々頭を下げに行った経験は誰しも一度はあるだろう。この時、仲直りできても心はスッキリしなかったはずだ。
この「子供の自分」が感情で、「親」が理性にあたる。上のように理性が感情を否定している状態は、大変大きなストレスになる。だからこそ、自分の中の「子供の感情」を認めることが重要になる。部下のミスで感じる怒りも、慣れない業務で感じる不安も、「そうだよね」と心の中で自分に声をかけてあげて欲しい。
感情を認めた上で、相手にぶちまけるメリット・デメリットを検討し、より賢い選択をする。たとえ「言わない」という行動が同じでも、この場合は我慢にはならず、ストレスも少なくて済む。
理性は感情を抑えるためのものではない。自身の感情と他者との関係、どちらも大切にするためにある。それを踏まえて正しい選択より賢い選択をして欲しい。
クレナイ病に要注意
2つ目の鉄則は「相手を変えようとしない」だ。感情のコントロールが苦手な人の多くは、相手が「してくれない」「分かってくれない」ことに腹を立て、口癖のように不満を吐く。さらには相手をコントロールしよう試みる。この「クレナイ病」というべき考え方には、何もメリットがないように見えるが、実は1つだけ利点がある。それは自分の行動を放棄できることだ。
「してくれるはず」「分かってくれて当然」と大した根拠もなく相手に期待することで、行動を相手に求め、自分は待つだけでいられる。この方が、自分で考え行動するより楽なのだ。
しかし、よく言われるが他人は変えられないもの。楽なのは一時だけだ。相手に行動変容を望んでいる限り、ストレスのループからは抜け出せない。感情を上手にコントロールするには、過度の期待は止め、相手と上手く付き合えるよう、自らの行動を工夫するべきだ。一時の苦労で済む上、自分の感情を相手任せにしていないので振り回されることがなく、ストレスも溜まりづらい。