ふるさと納税で寄付をすると、返礼品代わりに墓掃除や墓守代行をする自治体が今年に入って急増してきた。ふるさと納税ポータルサイトを見ると、過疎地域を抱える地方を中心に60以上の自治体が特典メニューに加えている。
お盆やお彼岸に帰省して墓参りをする人がいる一方で、なかなか故郷へ戻れず、墓が気になる人も少なくない。そんな悩みを解決しようとスタートした特典なのだが、その背景には急激な人口減少と高齢化の進行で墓守さえいなくなりつつある地方の苦境が見え隠れする。
寄付に応じて墓の清掃や供花を代行
大分県大分市は7月から「ご先祖見守りサービス」と題し、墓守代行を特典に加えた。2万円の寄付があれば、2回分の墓守代行サービスを受けられる仕組みだ。申し込みをすれば、大分市シルバー人材センターの会員が墓石の清掃や周囲の草取り、供花をしてくれる。
これまでに東京都の会社員らから4件の申し込みがあった。地元に墓守をする人がいなくなったり、親が高齢になって頻繁に墓参りできなくなったりした人たちだ。利用者は「故郷へなかなか帰れないが、これで安心できる」と喜んでいるという。
大分市は8月末現在で人口約48万人が暮らす中核市だが、2005年に編入合併した旧佐賀関町、旧野津原町など過疎地域も抱えている。両地域の合計人口は1960年の約3万5000人が約1万4000人に減り、65歳以上の高齢者が占める割合も40%を超えている。
大分市商工労政課は「過疎地域では高齢化で墓参りもままならない高齢者が増えている。進学や就職で県外へ出た人の中に墓参りの需要は大きいはずだ」と狙いを語る。
秋田県湯沢市は4月から墓地清掃サービスを始めた。1万円を寄付すれば、湯沢市シルバー人材センターの会員が墓をきれいに清掃してくれる。市内に墓があることが条件で、これまでに2件の申し込みがあった。
湯沢市は秋田県南部にあり、平安時代の歌人・小野小町生誕の地と自称していることで知られている。しかし、1970年に約6万9000人を数えた人口が6月現在で約4万6000人に減少、過疎と高齢化のダブルパンチに苦しんでいる。
湯沢市ひびくつながる創造課は「シルバー人材センターの仕事確保も狙いの1つだが、高齢化で墓掃除をできない世帯が増えてきたのが最大の理由。墓守にも行政のサポートが必要になってきた」と説明する。
課題は周知不足、高校卒業生に一斉連絡する自治体も
課題はまだ始まったばかりとあって、あまり知られていないことだ。ふるさと納税の特典で肉や海産物を探す人はいても、墓守サービスが必要な人がポータルサイトでサービスの有無を調べるケースはそう多くない。
兵庫県淡路島の洲本市は6月から墓の掃除代行を始め、1万円の寄付で1回、3万円だと3回の清掃を市内の業者が代行している。清掃に出向く先も市内に限定せず、淡路島内全域とした。しかし、申し込みはまだ1件にとどまっている。
洲本市は人口約4万4000人。関西の夏を代表するリゾート地だが、神戸市や大阪市への人口流出が続いている。高齢化率も30%を超え、体力の低下で墓守が困難な高齢者が増えてきた。
洲本市総務課は「淡路島全体が人口減少にあえいでいる。需要はあるはずだが、サービスの存在自体がまだ知られていないのではないか。これから地道にPRしていきたい」と語った。
ひと足早く3月から墓守サービスを始めた大分県豊後高田市も、申し込みは関西からの2件だけ。2万円以上の寄付があれば、市内の福祉施設入所者らが墓の清掃や供花をして清掃後の写真を送ってくれる。
墓以外にも空き家の草むしりや庭の清掃も請け負っているが、思うような反応は返ってきていない。このため、地元高校の卒業生に対し、新しく墓守サービスを始めたことを一斉連絡するなど、サービスの周知に力を入れている。
墓は都会へ出て行った出身者と故郷を結ぶ最後の絆だ。豊後高田市企画情報課は「都会で暮らす市出身者にサービス開始が周知されれば、もっと利用があるはず。そうした潜在的な要望に応えていきたい」と述べた。
打ち棄てられた無縁墓の増加防止へ最後の一策
過疎地域では65歳以上の高齢者が人口の過半数を占める限界集落が増えている。高知県大豊町や徳島県上勝町のように自治体全体で人口の過半数が高齢者となった限界自治体も珍しくない。
高齢者が元気なうちはまだいいが、高齢者がさらに年を取れば、墓参りも難しくなる。都会へ出て行った若い世代が帰ってこれなければ、墓は放置され、やがて無縁墓となって放棄されていく。こんな光景が全国あちこちで見られるようになってきた。
こうした状況を打開するため、長崎県や広島県では葬祭業者が墓守サービスを事業化しているが、民間の業者がいない地域では墓じまいして寺に永代供養を頼むか、放棄するかの二者択一を迫られる。
自治体が墓守サービスをふるさと納税の特典に加えているのは、止むに止まれぬこうした実態が背景にあるからだ。人口減少と高齢化で消滅に向かってひた走る過疎地の苦境が生み出した特典なのだろう。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。