債券市場の"管理変動相場化"の影響

◆債券市場のボラティリティ低下:証券会社にマイナス影響

10年国債金利をゼロ%程度にアンカーするという施策は、既に後退しかけていた債券市場の機能を一層損ないかねない。

理論上、中央銀行は長期金利を直接コントロールすることは難しいとされていた。しかし、現在の長期金利は、ファンダメンタルズ(インフレ率や将来の金利期待)以上に需給に左右されやすい。このため、中央銀行の膨大な購入額に裏打ちされた価格調整力は(特に利回りを低下させる方向については)極めて強いと思われる。

実質管理相場化する債券市場で、今後ボラティリティが低下した場合、金融機関の収益にはどの程度マイナスとなりうるのか。債券トレーディング収益は、証券会社(251社平均、2015年3月期、日本証券経済研究所)の純営業収益の2割程度(9,193億円)を占めている。ボラリティが低下するとこれが相当程度減少する可能性がある。

また、銀行については、国債等関係損益は4,977億円、業務粗利益の5%、実質業務純益の1割程度となっている(15/3月期)。他の業務の規模が大きいため、影響度は証券会社ほどではないものの、それでも、利益の1割が影響を受ける可能性がある。

◆短期金利の低下圧力:マイナス金利深堀り温存でもTiborは下落開始

21日の政策決定会合以降の日銀のさまざまなメッセージの発信で、市場は早くも今後のマイナス金利の深堀りの可能性を織り込み始めた模様だ。大手行の貸出の5割、地銀の2割が連動するTibor(銀行間取引金利)は、22日以降じわじわと低下し始めている(図表4,5)。

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これまでレポートしたように、マイナス金利深堀りの利益インパクトは、20bpの引き下げ(=政策金利-0.3%)で、大手行で約5%、地域銀行で20%の減益である( 9月13日付レポート を参照)。しかし、このままTiborの下落が続けば、マイナス金利の深堀りを待たずして銀行収益へのマイナス影響が出始めるだろう。

◆超長期投融資の一層の拡大:インフラ、商社、不動産等では、疑似資本まで低利調達。でも銀行のリスク管理には注意

2月のマイナス金利導入以降、金利の"お得感"で、超長期の投融資が急増している。相対のローンの統計は取れないが、下記図表6の通り20年以上の超長期債の発行は、マイナス金利導入後爆発的に増加している。

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更に銀行は、長期でかつ返済順位の低い「劣後ローン」の貸出も活発化している。例えば、出光興産に対する1,000億円の期間60年の劣後ローン(16年3月)、丸紅に対する2,500億円の永久劣後ローン(16年8月)や、JFEホールディングスに対する2,000億円の期間60年の劣後ローン(16年6月)など、マイナス金利導入前ではあまり考えられなかったような条件のローンが実行されている。

こうした劣後ローンや劣後債は、格付会社等には資本の一部にカウントしてもらえる。企業にとっては、ROEを落とさず資本力が増強できることから株価にはプラスである。業種としては、インフラ関連、商社、不動産等の調達が多い。

一方、金融機関のメリットには疑問もある。これまでのところ優良な企業向けが多いが、今後貸出先のすそ野は広がるだろう。貸出先企業の範囲が広がると、20年以上の長期のクレジット・リスクの予想は難しい。

例えば、今から20年前、1995年頃の銀行の大口貸出先の中には、その後市場からの退出を余儀なくされた企業も多かったことは記憶に新しい。なお、金利が借入から5~10年後に上昇するという「ステップアップ」条項を設けて早期償還を促すようにしているが、通常これは借入企業側のオプションである。

逆に、今後、長期金利が動かなくなり、更に、金利の先安感が生じれば、借入が先送りされる可能性もある。これらの点から、ここまでの超長期投融資は、比較的優良な収益源と言えるとしても、ここから更に無尽蔵に拡大できるものではない。