2010年からの5年間は、グローバルな需要不足と、それにともなう貿易活動の停滞とデフレ懸念が特徴であった。振り返ってみると、リーマンショック後の財政拡大の反動で、強い財政再建の方向性で合意した2010年のG20がその動きを決したと考えられる。当時はまだ、需給ギャップは金融政策のみで解消することができるという古い経済学の影響力が強く、金融緩和の強化と財政再建のコンビネーションが有効であると信じられてきた。

財政拡大の力不足が金融緩和の膨張を呼んだ

企業が投資に消極的で、負債を返済し貯蓄をしてしまう原因は、財政赤字が大きく、政府の負債残高が膨張しているため、将来の金利の高騰を不安視しているからだと考える。家計も、財政収支が悪いことにより社会保障システムが持続的ではないと感じ、消費を抑制してしまっていると考える。

増税や歳出削減により財政を緊縮にし、財政収支を改善させれば、企業は投資を、家計は消費を増やし、景気を刺激する「安心効果」があるとされる。この「安心効果」が、税と社会保障の一体改革による消費税率引き上げを後押しするとともに、不安をより高める財政政策の景気刺激効果はないという理論的支柱になっていた。

更に、財政拡大は金利上昇と為替高をもたらすために景気押し上げ効果がなく、デフレを含め物価はすべからく貨幣的現象であり、需給ギャップの解消とデフレ脱却は、主に金融緩和のみで可能であるとして、金融緩和が膨張していった。

グローバルの金融緩和は景気回復を支えたものの……

しかし、企業のデレバレッジによる貯蓄行動を財政赤字で十分にオフセットしなければ、量的金融緩和によってマネタイズするネットの資金需要が弱く、金融政策の効果は限定的となる。それでも金融緩和に依存し続ければ、いずれ緩和手段が限界に達し、マーケットの信任が低下してしまうことが明らかになった。

グローバルな強い金融緩和は、金利水準を低下させ、新興国の投資を活性化し、一時的にグローバルな景気回復が支えられた。しかし、財政再建が先進国の需要の回復を鈍化させたことが、新興国の供給能力を過多にし、行き過ぎた投資の反動とそのストック調整がグローバルな景気・マーケットの不安定につながってしまった。

金利低下による資本の活発な動きに対して、需要停滞による賃金と雇用の回復は遅れ、貧富の格差や中間層の没落が、ポピュリズムの蔓延につながった。金融緩和の強化と財政再建のコンビネーションは、景気回復の促進に失敗したばかりか、ポピュリズムによる政情不安につながってしまっているようだ。

消費増税が招いたのは家計の貯蓄率低下

日本も、財政再建に強くコミットせざるを得なく、財政政策も、震災復興以外は、抑制されたものにとどまってきた。規制緩和を含めた成長戦略を強く推進するためにも、財政支出が必要であり、財政再建の強いコミットメントのもとでは、困難化してしまった。

高齢化による家計の貯蓄率の低下と、財政ファイナンスを過度に懸念した、拙速な消費税率引き上げなどを含む財政緊縮によって、家計の貯蓄率の低下が加速し、ゼロ%に近いてしまったのはとても皮肉な結果である。

この家計の貯蓄率の低下は、貯蓄できていた世帯、即ち中間所得層が疲弊してしまい、家計には消費を拡大する余力がなくなってしまっていることを意味する。中間所得層の疲弊が続けば、日本でも、ポピュリズムが拡大することによる政情不安など、社会の安定を損ねてしまうことになる。