政権与党と野党は財政政策は真逆?
しかし、グローバルにはポピュリズムによる政情不安が大きくなっているが、日本の政治状況はまだ極めて安定している。日本では、アベノミクスの政策ロジックが財政緩和路線であり、緊縮財政からリフレによる景気回復をともなった財政再建に、他国より早く転換したのが理由であろう。
金融緩和の強化と財政再建のコンビネーションが、既得権益を守る勢力の政策であるというイメージが日本にはなく、それに対する反感がポピュリズムに向かう動きになっていない。実際に、政権与党は財政緩和路線であるのに対し、野党は財政緊縮路線で逆のように見える。
「安心効果」は既得権益がある勢力だけであれば存在するのかもしれないが、中間所得層が疲弊している中では虚構であったことは、日本でも2014年の消費税率引き上げの失敗で明らかになった。この状況で、2017年4月の消費税率の再引き上げが強行されていれば、日本は深刻な景気後退とポピュリズムの蔓延に陥っていた可能性が高かっただろうから、安倍首相の先送り決断は正解であった。
G20、G7首脳陣も財務相も世界経済の成長促進を加速目指す
このようなロジックで考えると、金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した2016年のG20、そしてその流れを加速するG7は新たな転換点かもしれない。5月20・21日の日本におけるG7財務相・中央銀行総裁会議でも、各国の状況に応じて、金融政策・財政政策・構造改革をバランスよく用いることを再確認した。需要拡大によりG7で世界経済の成長を牽引するため、少なくとも財政再建が主眼であったこれまでの方針は転換した。
5月26・27日のG7サミットでも、世界経済の成長促進のため、金融政策・財政政策・構造改革をG7版の三本の矢と位置づけることが、首脳宣言で確認された。安倍首相は、議長国としてグローバルな需要拡大のためのコミットメントを求められ、相当な覚悟で政策面での日本のリーダーシップを発揮した。ポピュリズムの蔓延に対する警戒感も、政策転換を後押ししたとみられる。
景気動向の転換点を迎える今
2010年からの5年間は、緊縮財政などによるグローバルな需要不足とデフレ懸念が特徴であったが、これからの5年間は財政が緩和気味になれば、グローバルな需要回復とインフレ復活が特徴になるかもしれない。2010年の時点で、財政再建がこれほどの長期的な需要停滞につながると予想できなかったように、現在の方向感の変化もまだ実感は弱く、ポピュリズムによる政情不安をともない、短期的には混乱が大きくなるかもしれない。
しかし、徐々に景気回復力から物価上昇圧力への動きが生まれ、2020年の時点ではここが転換点であったことが分かるだろう。ポピュリズムによる政情不安が財政拡大を過多にすれば、グローバルにインフレが問題となるリスクもあろう。緊縮財政に戻れば、景気回復力を削ぎ、ポピュリズムが更に蔓延し、経済問題は、社会問題や地政学問題というより深刻なものにつながるリスクが生まれる。一方、財政拡大が過多になったり、金融政策の調整が遅れれば、いずれインフレの問題を深刻にするかもしれない。
ポピュリズム蔓延に向かわないためには
もともと、金融緩和の強化と財政緩和のコンビネーションで、貧富の格差や中間層の没落を食い止めながらの政策運営がなされていれば、これほどのグローバルな景気停滞とポピュリズムの蔓延という不安定な状態に陥ることはなかったかもしれないと悔やまれる。インフレかポピュリズムの蔓延かという、好ましくない二者択一になることもなかったであろう。
ただ、ポピュリズムの蔓延より、インフレの方がよほど制御しやすい。デフレ完全脱却を目指す日本は、将来のインフレリスクを恐れず、拡大政策を推し進める必要がある。緊縮方向に戻れば、まだ政治が安定している日本も、ポピュリズムの蔓延の列に加わることになろう。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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