要旨

副業に注目が集まっているなか、本稿では、副業の現状を概観したうえで、副業に関する過去の議論や課題整理を紹介し、主に人事実務の視座に立って今後の課題と方向性について考えている。

副業が注目されるのは今回が初めてではなく、1990年代後半から2000年代前半にかけても、副業に注目が集まった時期があった。

これまでの検討を通じて、人事実務上の課題は既にほぼ整理されており、人事実務上の最大のネックは、複数の勤務先で労働時間の通算・管理だといえよう。企業にとって、個別対応を要する労働時間管理は相当大きな負担であり、副業が複数に及んだり度々変わったり、あるいは副業が増加したりすると、余計に対応が難しくなるだろう。

しかしながら、労働時間管理は、割増賃金の算出等のために実務的に必要だというだけではなく、長時間労働による健康状態の悪化等を回避するための重要な手段の一つであり、労働者保護の観点からここを疎かにするわけにはいかない。労働時間管理に関する有効な解決策がない限り、企業による副業の容認・推奨の動きは、ある程度限定的な広がりにとどまると考えられる。

現状において、企業が労働時間管理を始めとする人事実務上のネックを回避しながら副業を容認・推奨するためには、本業に悪影響を及ぼすケース等を列挙した限定的な副業禁止規定を設け、それ以外の副業については関知せず、自己責任に委ねるという選択肢も考えられる。

ただ、マイナンバーの導入に伴い、従業員の賃金以外の収入の存在を企業が把握しやすくなるなかで、従業員の副業に関知しないという「緩やかな運用」がどこまで世の中に許容されるかというリスクは残るだろう。