国土交通省が国管理27空港の2015年度収支を試算したところ、滑走路など空港本体事業と、駐車場や空港ビルなど関連事業を合わせた営業利益が2年連続の黒字だったことが分かった。訪日外国人観光客の記録的な増加を背景に、格安航空会社(LCC)の就航便数や空港での商品販売が増えたことが原因だ。
しかし、空港別の収支を見ると、営業黒字だったのは東京都の羽田、北海道の新千歳、愛媛県の松山、石川県の小松の4空港だけ。インバウンド観光にわく大都市の拠点空港と異なり、地方空港の苦戦は続いている。
インバウンド観光で拠点空港の収入は増加
試算をまとめた空港は国管理のうち、2015年度に民間航空の発着がなかった官民共用の北海道千歳空港(航空自衛隊千歳基地)を除く27空港。国が100%出資する特殊会社「新関西国際空港」が一括運営していた大阪府、兵庫県の関西、伊丹の両空港は含まれていない。
それによると、国管理27空港全体の営業損益は対前年度比75億円増で、177億円の黒字となった。2014年度は102億円の営業利益を上げ、2010年度以来初めて黒字を確保したが、インバウンド観光ブームに乗り、それを大きく上回った。
内訳は空港本体事業が205億円の赤字。着陸料収入の増加から赤字額は前年度の219億円より15億円減ったものの、沖縄県の那覇空港の滑走路増設に伴う費用などが重い負担となった。
これに対し、駐車場料金や空港ビルの売り上げなどを合計した関連事業は、対前年度比61億円増の382億円の黒字。羽田、新千歳、那覇など拠点空港でテナント売り上げや施設使用料が好調に推移したことが影響した。
地方空港はそろって億単位の赤字
営業損益を空港別に見ると、空港本体事業で黒字となったのは羽田、新千歳の両空港だけ。羽田空港は35億2000万円、新千歳空港は26億6000万円の利益を上げた。関連事業では、該当事業のない大阪府の八尾空港を除いて、すべての空港が黒字を確保している。
空港本体事業に関連事業を合わせた営業損益で黒字を出した4空港は、羽田空港が254億200万円、新千歳空港が63億円、松山空港が5600万円、小松空港が2700万円の利益を出した。
2014年度はこの4空港のほかに広島県の広島空港、2013年度は広島と福岡県の福岡空港、熊本県の熊本、宮崎県の宮崎、鹿児島県の鹿児島の計5空港が黒字だったが、滑走路改良工事や耐震化対策などで赤字に転落している。
赤字が最も大きかったのは、滑走路の増設が響いた那覇空港の33億8300万円。新潟県の新潟空港13億5000万円、宮城県の仙台空港10億9900万円と続くが、地方空港はそろって億単位の赤字を記録した。
国交省交通ネットワーク企画課は「国全体で見ると収支が改善しつつある」とみているが、羽田と新千歳両空港の収益で地方空港の赤字を埋め合わせている格好。数字の上からは地方空港に改善の兆しをうかがえない。
この傾向は自治体が管理する地方空港にも見られる。静岡県が管理する静岡空港は中国路線が相次いで就航し、一時地方空港の勝ち組と呼ばれていたが、2015年度の収入2億5200万円に対し、支出は7億5700万円。収支差額の5億500万円を一般財源からの繰り入れで埋め合わせた。
年間乗降客は過去最多となったが、中国人客の要望で駐車場の一部に荷物置き場を設け、警備員を配置するなど想定外の費用増が響いた。2015年9月のピーク時で14路線あった中国便は、わずか1年で3分の1の5便に減少しており、勝ち組返上の危機に直面している。
岩手県管理の花巻空港も2015年度収支で16億700万円の赤字と試算された。前年度に比べ赤字幅は9800万円減少したものの、地方債の償還が響き、これで収支計算を始めて以来8年連続の赤字となった。
人口減と競争激化、地方空港を襲うダブルパンチ
地方空港は高度経済成長期以来、1県1空港を目指して各自治体が国に要望してきた。国による整備は離島部を除き、抑制されているが、自治体による地方空港の建設は収支見通しを置き去りにしたまま続けられてきた。
ここ数年は中国の経済発展で日本への直行便が相次いで開設され、一時的に潤う空港も出てきたが、地方空港への波及効果は限定的。中国バブルの崩壊で空港間の路線奪い合いが激化し、路線廃止によるマイナス効果が心配されるようになってきた。
空の足といっても公共交通の側面があるだけに、一概に赤字がだめとはいい切れない。たとえ赤字でも観光客を受け入れることで地元経済への波及効果もある。しかし、地方は今、深刻な人口減少に入っている。国、自治体とも厳しい財政状況だけに、いつまでも赤字の穴埋めをできるとは限らない。
国交省は2016年を「空港民営化元年」と位置づけ、関西、伊丹、仙台の3空港が民営化された。近い将来、新千歳など北海道内の7空港と香川県の高松、兵庫県の神戸、福岡、広島、静岡空港などが民間の運営に任される見通しだ。ただ、民間が運営することにより、空港間の競争はさらに激化していくだろう。
弱肉強食の時代を地方空港が生き抜くためには、空港を商業、観光拠点とし、乗降客だけでなく、地域の人も金を落とす場所に変える必要がある。道の駅や高速道路はもはや休憩や買い物をするだけの施設ではなくなった。空港も地域の知恵を結集し、稼ぐ施設に生まれ変わることが求められている。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。