シンガポールでのスタートアップは、特にFinTech(フィンテック)セクターでまぎれもなく盛況だ。先進国でありASEAN諸国の金融ハブであるシンガポールは、FinTechを取り巻く環境に極めて好都合だからだ。

実際にFinTechは大いに歓迎されており、この11月にはFinTechフェスティバルが開催された。こういったことからアジアのトップFinTechスタートアップはシンガポールに拠点を置くことを好んでいる。

シンガポールにはFinTechスタートアップが成功するために不可欠なリソースが揃っている。多くのインキュベーター、アクセラレータープログラムを活用でき、資金調達も活発だ。今ほどあなたのスタートアップの拠点をシンガポールに移すのに適した時はないだろう。

シンガポールのアクセラレータープログラムの一つで、最近出来たばかりだが既に多くの関心を集めているFinTechスタートアップに FinLab はUOB(大華銀行)とInfocomm Investmentsによって立ち上げられた優れたアクセラレータープログラムだ。 FinLab のマネージング・ディレクターであるフェリックス・タン氏を筆頭に、質の高いサービスを提供している。

FinLab
FinLab

タン氏は金融業界で輝かしい経歴を持ち、 FinLab に多大なる貢献をしている。外資系と地場の2つの銀行で業務に携わり、自らスタートアップを創設(1999年10月に1億米ドルの時価総額を達成)し、2000万米ドルのPEファンドを立ち上げ、経営した経験を持つと同時に、エンジェル投資家として、またNTU Ventures(現 NTUitive)でのスタートアップの相談役としてなど、さまざまな場で活躍してきました。そのことから、 FinLab をリードするのにふさわしい候補者であったといえるだろう。

FinLab は2016年の11月に創設され、タン氏は12月に就任した。

あなたのFinTechスタートアップを引き立たせるには

世界のFinTechスタートアップは熱狂的な盛り上がりを見せている。多くのスタートアップが様々な提案をしているが、彼らのアイデアが銀行に採用・支援されていくのかは別問題だ。

そもそも FinLab のようなアクセラレータープログラムに採用されるには、激しい競争を勝ち抜かねばならない。

「FinTechの時代の流れに飛び乗る人は多いが、しばらくすると、市場の力が洗練されたものとそうでないものを選択していく」とタン氏は言う。「強いプレイヤーは資金を獲得し、弱いプレイヤーはというと、良いテクノロジーを持っているなら買収され、そうでないなら息絶えていく。ほこりが振り払われた後、残ったプレイヤーは主に銀行の助けのおかげでさらに大きく成長していく」と彼は付け加える。

アジアで一番のフィンテックスタートアップになる為には知っておくべきいくつかの事柄がある、とタン氏は言う。

1. 新しいROI

ROI(Return on Investment、投資収益率)は、スタートアップを含む今日の企業の成功の尺度として見なされるべきではない。

「ROIは結果論的な指標だ。あなたが最初に注目しなければならない3つの事がある。情報、アイデア、そして技術革新だ。なぜならこれらは前向きな指標だからだ」と彼はアドバイスする。

情報があふれる中で、現在の課題は本質的でないものを取り除き、どういったパターンが現れるのかを見つける能力を身に付けることである。

「この情報から今後の動向を見極める能力は、その動向を掴み、それに乗る為に何がなされる必要があるのかを策定するのに役立つ。そしてこれらは、あなたのアイデアになる。従って、最初のROIはリターン・オン・インフォメーションであり、それはあなたのアイデアの源になる。アイデアは頭の中から引き出して実現させない限り、アイデアに過ぎないが、それが実現したときは、イノベーションとなる。よって、イノベーションは第二のROI、リターン・オン・アイデアだ。イノベーションが起こり、成功(または失敗)すると、我々は投資収益率を見ることができるのだ」とタン氏は付け加える。

2. アイデア・バンクを持つこと

あなたのアイデアを最初から理解してくれる人はいないかもしれないし、必要なテクノロジーはまだ存在していない場合もある。しかしタン氏は、「未来を予言する一番良い方法は、自分の手で創り出すことである」と言う。

「時にはあなたのアイデアは今すぐ実現しない場合がある。それはテクノロジーがまだ追いついていなかったり、市場がまだ整っていなかったり、もしくはその両方のためだ。そういう時は私がアイデア・バンクと呼ぶものに一旦寝かせておくのがいい。時が満ちたとき、あなたはそのアイデアを引き出して実行し、急発進することで市場をリードすることができるだろう」

FinLab は、UOBと同じく、アイデア・バンクを持つことの重要性を信じている。「我々は(プログラムに応募したスタートアップにいる)プロフェッショナルと付き合っており、彼らはアイデアを実行に移す能力を持っていることに疑いの余地はない。ただ一つ難点は、時々彼らのアイデアは時代の先を行き過ぎていることだ」とタン氏は指摘する。

「アイデア・バンクを膨らませることは、あなたのビジネスがただ生き残るだけでなく、売り上げと生産性を伸ばしながら繁栄していくためのイノベーションの出処となる」

3. あなたが欲しいもの・提供するべきものを知る

アクセラレータープログラムはありふれたものだ。明らかに、スタートアップとして、全てではないとしても、あなたのニーズの大半を満たすアクセラレータープログラムを必要とするだろう。しかしアクセラレーターとあなたのスタートアップの関係は、相思相愛でないことを忘れてはいけない。

「スタートアップとしてどれほどの株式を手放すかだけを見てはならない。それは本当に短期的な視点だ。スタート地点で得られるベストな条件は、中期的から長期的な視点ではベストでない可能性がある」

あなたが選んだアクセラレーターとどういった関係を築きたいかを考えて欲しい。 FinLab の場合、UOBとInfocomm Investmentsを株主に持つことは急成長を望むスタートアップにとって非常にユニークな価値の提案となる。

「私たちとの関係を望むスタートアップは、彼らのビジネスを成長させるために銀行とInfocomm Investmentsのネットワークをどれほど利用できるのかを知るべきだ。手放す株式を見てはいけない。その代わりに、比較的短期間に手に入れ構築できるネットワークを見るべきだ」と彼は言う。

フェリックス・タン氏(画像=FinLabより)
フェリックス・タン氏(画像=FinLabより)

アクセラレーターは、そのスタートアップが大きな市場に存在する差し迫った問題を解決したいと考えているか、またチームがそれを解決できるだけの必要な知識と経験を持ち合わせているかを評価する。

「私にとって最も大切なのは、創業者を見たときに、彼が自身のスタートアップが成功するために命をかけているかだ。このようにして、その創業者がただお金のためではなく、全力を尽くしていることが分かる」と彼は述べる。

FinLab と提携したスタートアップであることのさらなる利点としては、異なる部署のトップで構成される、UOBのメンターへのアクセスだ。更にそのメンターたちは、そのスタートアップが同行に導入可能なプロダクトやサービスを持っている場合、同行内でその手続きを進める権限も持っている。アジアで一番のFinTechスタートアップにとってこのようなサポート体制は重要である。

4. 進んで共有すること

FinLab はアクセラレータープログラムの封切りを終え、タン氏によると、FinTech業界内の異なるセクターから最良のスタートアップを選ぶことができた。それはどんな理由からだろうか。

「我々は数人のメンターにとどまらず、できるだけ多くのUOBのメンターを巻き込みたい。彼らがトップレベルの経営陣であり、深くそして幅広い経験を持っていることを考えると、数人に多くをお願いし、残りには特に依頼しない、という方法は望まない」

さらに、スタートアップと面談を希望する投資家は、注力している分野次第だが、より幅広い選択肢を得ることができる。この方法でであれば、同時により多くの投資家とのやり取りが可能になる。

そして、異なるFinTechセクターのスタートアップを同時に抱える最後の利点は以下の通りだ。

「複数のスタートアップが互いに競い合っていないと、彼らはより積極的に助け合うものだ。このやり方こそ我々が今後推進していきたいことだ」

「生物学的には、遺伝子プールは他花受粉で強くなる。我々は同じことがFinTechスタートアップでも起こると信じている。お互いにフィードバックを得るためにアイデアを進んで共有する必要がある。我々は何かに没頭していると、他者が見る角度から物事を見ることができないことがある。そしてこういったことが我々が探していた突破口を見つけてくれることがあるのだ」

5. アジアの市場を理解すること

FinLab のようなアクセラレーターとの付き合いを望むスタートアップは、地域の優位性を勝ち取る戦略を持つべきだ。「シンガポールはASEAN諸国進出に向けてのきっかけになるし、スタートアップへの出資環境も整っているから実験台にもなる。もしそれをうまく利用でき、強力でスケール可能な商品パイプラインをもっているなら、シンガポールを使ってASEANで羽ばたくことができるだろう」とタン氏は言う。

FinLab の強みはUOBとのつながりにある。UOBは19カ国に進出しており、ASEAN諸国を中心に500の支店を持つ。

「ASEANにおけるFinTechに対する関心は高まってきている。タイやインドネシアはシンガポール以上に、状況を打破するためFinTechを必要としている。地理的には彼らのほうが大きな国だが、人口の多くがいまだに銀行を利用しない、もしくは出来ない人たちだ。こういった国の市場にFinTechを用いることは、金融サービスにより多くの人々を引き込むのに極めて重要だ。従って、B2Bスタートアップがもたらす価値の提案、特に銀行の顧客向けのサービスもしくは銀行が新しい市場やセグメントを開拓する手助けをするものは、他よりはるかに有利といえるだろう」と彼は付け加える。

しかし、これだけは覚えておいて欲しい。アジアでは、パートナーシップに価値を置いており、あなたのビジネスが成長し、たゆまぬ価値の創造によってそのパートナーシップを深められる場合、そのパートナーはあなたに良いサービスを提供し続けてくれる。

これらのヒントを念頭に入れておけば、アジアで一番のFinTechスタートアップの名誉を手に入れられるはずだ。