中国のWebニュースメディア「参考消息網」は12月4日、英誌『エコノミスト』(経済学人)の掲載した、中国人の離婚増加に関する記事を紹介した。昨年、中国では年間384万1000組の夫婦が離婚した。これは10年前の約2倍である。
上海には、“快速離婚代理”をキャッチフレーズに掲げる離婚サービス会社まで現れた。まずデータを押さえた上で記事を分析、日本との比較をしてみよう。
結婚、離婚に関するデータ
中国の粗結婚率(総人口数÷一定時間内結婚組数)は2010年以降、次のように推移している。
2010年 1241万組 9.3%
2011年 1302万組 9.7%
2012年 1324万組 9.8%
2013年 1347万組 9.9%
2014年 1307万組 9.6%
2015年 1225万組 9.0%
粗結婚率トップ3は、貴州省、安徽省、新疆ウイグル自治区、粗結婚率ボトム3は、チベット、上海、天津、となっている。
離婚率(年平均総人口÷年内離婚数)は2015年には2.8%となった。結婚1225万組に離婚384万組で、ほぼ3組に1組に近い。
ちなみに欧米諸国のデータは中国と少し違い、人口1000人当たりの離婚件数で表す。それ(厚労省2015年1月1日発表)によるとロシア4.5%、アメリカ3.6%、日本は1,77%である。日本の場合、婚姻率(人口1000人当たり結婚件数)5.2なので、5.2÷1.77 およそ2.9組に1組離婚している計算になる。つまり日中の離婚率データは、ほぼ同じ水準となっているのだ。
省別のトップ5を上げて見と
1位 黒竜江省0.51
2位 吉林省0.48
3位 天津0.46
4位 北京0.44
5位 重慶0,41
次は少ないほうから5省・地域を見ると
1位 チベット 0.10
2位 甘粛省 0.13
3位 海南省 0.14
4位 山西省 0.16
5位 青海省 0.16
かなりの地域差があり、一概に地方は離婚率が低いとも言えない。黒竜江省や吉林省は、結婚した夫婦の2組に1組が離婚している。トップ5は重慶市を除いてなぜか寒いところばかりである。
重慶市の“婚姻家庭法領域”コンサルタント
記事は、離婚率5位の重慶市を取り上げている。濃紺のスーツに身を包み、銀の高級腕時計、そして禁煙に取り組むY氏は、中国家庭価値観の代表ではない。彼の事務室は高級マンションと見まがうばかりである。グレーのソファと乳白色のカーテン、窓外には重慶市の摩天楼がそびえる。しかし彼は大企業の経営幹部でもない。“婚姻家庭法領域”のコンサルタントである。
当初は多方面の業務を扱っていたが、現在の主力は、主に金持ちの奥さんから依頼を受け、夫とその愛人を分かれさせることである。多いときには30~40人もの顧客を抱え、収入は1件あたり10万元~50万元(約160万円~800万円)、通常は7~8カ月にわたる長期プロジェクトとなる。
中国の“婚外愛人”は増加の一途である。某中国メディアは、愛人の存在がマンションの高騰を招いている、とまで指摘している。また2015年の北京大学の実施した8万人調査では、既婚男女の20%に“第三者”の存在が確認された。「愛人は最大の婚姻キラー」と称するY氏の仕事は、重慶市の離婚率を押さえ、社会の安定に寄与しているのだ。
データは似ていても、実は大きな日中の風土差
”一夫一妻多妾制”は中国古来の風であった。売春も容認されていた。それが1950年施行の「婚姻法」により、一夫多妻は非合法とされ、ブルジョア階級の不道徳行為と見做された。実際にこの法律は結婚を増加させ、社会の安定に大きな貢献をした。それに80年代までは生活にゆとりはなく“第三者”の存在は微々たるものだった。しかしここ30年の経済発展に伴い、人々の性観念は他の欲望とともに大いに解放された。というより観念的には、金持ち階級を中心に中国古来の風に戻ったともいえる。実は中国で激変したのは目に見える範囲だけなのかもしれない。
現代に特有の風としては、不動産購入制限政策が発令されると、その対策として離婚が増える、という現象もある。2010年~11年の不動産バブルではこれが中国全土を覆う話題となった。
日本の離婚率上昇原因は、どのように語られているのだろうか。日本のネット情報を調べてみると
「さずかり婚が増えたこと」「経済的な生活苦を強いられること」「女性の社会進出に伴う熟年離婚」といった分類もあれば、「バブル崩壊以後の経済低迷」「女性の立場上昇」「核家族化」「個人主義」「役割分担の減少」--といった分析もある。
さらに具体的理由として男女別に
女性
- 性格の不一致
- DV
- 生活費の問題
- 不倫
- 精神的虐待
- 浪費癖
- 飲酒の問題
男性
- 性格の不一致
- 不倫
- 家族や親族の問題
- 異常な性格
- 精神的虐待
- 浪費癖
- セックスレス
などを挙げている。
このように日本ではたいてい離婚増加の背景として、社会の停滞と成熟に伴う個人の不安定化を挙げる。参考消息網も中国社会と個人の弱化を問題として取上げている。ただし日本が全く未知の局面に到達しているのに対し、中国は先祖返りしているだけ、とも取れる。離婚率の増加、高齢者人口の増加とも、データ上は、中国は日本の後追いをする形ではある。
しかし、生命力は中国人の方がはるかに旺盛で、サバイバル能力も高い。日本人も平均寿命を誇るだけではなく、もっと厚かましく生きた方がいいのではないだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)