一億総中流と呼ばれたのは今や昔、日本社会でも非正規労働者の増加や子供の貧困など格差が社会問題として着目されるようになってきた。分厚い中間層が支えてきた消費は落ち込み、国内企業は戦略の見直しに迫られている。こうした中、勝ち組とされる富裕層向けのサービスを充実させ、リッチマネーの取り込みに各社が工夫を凝らす。

売上伸び悩む百貨店、コンシェルジェに期待

中国人観光客を中心とした爆買いブームが終焉を迎え、国内の若者はインターネットショッピングに流れるなど、百貨店をめぐる消費環境は厳しさを増している。日本百貨店協会がまとめた16年10月の全国百貨店売上概況によると、売上高は前年同月比で3.9%減となり、8カ月連続で前の年を下回る結果となり、不振が続く。苦境に立たされる百貨店業界が期待を込めるのが、富裕層を対象にしたコンシェルジェサービスだ。

大丸・福岡天神店が展開するのは、コンシェルジェがファッションのコーディネートを提案する「エクセレントルーム」サービス。3人のコンシェルジェがレディスファッションを担当し、利用客は来店希望日の3日前までに予約する。

顧客の要望やTPOを考慮して、コンシェルジェが提案する洋服のパターンを準備し、来店当日は2時間30分の利用時間内で、コンシェルジェと相談しながら、利用客が希望の商品を選び購入していく。このエクセレントルームの利用は無料だが、このサービスして商品を購入する顧客の平均単価は約30万円に上り、30-50代の富裕層の女性を中心に利用が広がっている。

ショッピングの際にも頻繁に用いられるクレジットカードでも富裕層をターゲットにしたサービスが登場。新生銀行 <8303> グループのアプラスは、米国の富裕層向けクレジットカード「Luxury Card」の日本国内での提携発行をスタートした。このカードには、24時間365日のチケットの手配などを手掛けてくれるコンシェルジェサービス、世界950以上の空港ラウンジを利用できるパス、世界各地の高級ホテルで客室のアップグレードなどがサービスとして付帯している。

カードはゴールド、ブラック、チタニウムの3種類で、年会費はそれぞれ20万円、10万円、5万円(いずれも税抜き)と、一般的なクレジットカードの年会費より割高な設定だ。

旅行業界も富裕層取り込みに躍起

富裕層は、身だしなみを整えるため洋服などへの消費を惜しまない他、休暇の際には旅行にもお金をかける傾向がある。こうした需要を取り囲もうと、旅行関連でも富裕層をターゲットにしたサービスが拡大している。

東京都新宿区にある京王プラザホテルの本館高層階には、25億円の改装費をかけて、クラブフロア「プレミアグラン」が誕生した。このフロアの宿泊客専用ラウンジは、日本庭園をイメージした総面積535平方メートルと都内最大級のスペースに、153の座席を配置し、コンシェルジェが常駐する。111室を構えるプレミアグランの客室には、世界の高級ホテルで採用されているベッドやシーツを取り入れた。クラブルームは33.7-35.5平方メートル、スイートルームは71平方メートルで、宿泊費はクラブルーム12万円?となっている。

また、富裕層に根強い人気を誇るクルーズ旅行に特化したサービスを展開するのがJTBだ。銀座にクルーズ専門の店舗を設け、船旅のスペシャリストをクルーズコンシェルジェとして配置。店舗では、クルーズ旅行の映像を交えながら、スペシャリストによる説明会を旅先別に開催している。

また、JTBでは、国内外の旅行をオーダーメードで作り上げるサービスも充実させ、行き先やテーマを旅行者からヒヤリングし、旅程を組み立てていく。さらに、このサービスでは日本発着のプライベートジェットによるオーダーメードの旅の取り扱いをスタートした。効率的にフライトの時間を調整して移動したい富裕層のニーズを取り込む狙いだ。

旅行関連業者にとって有望なターゲットは国内の富裕層だけにとどまらず、海外から日本を訪れる富裕層の需要をいかに喚起できるかがキーとなるだろう。京都・大阪・神戸・堺の4市は合同で、アメリカの富裕層を誘致するためのプロモーションに取り組んでいる。日本の伝統文化に造詣を深めてもらおうと、堺市で包丁づくり体験、灘の酒蔵見学、京都で座禅体験など、ワンランク上のコト消費を盛り込んだ訪日ツアーに期待を込める。

消費が伸び悩む経済環境で、価値を見出したものへの出費を惜しまない富裕層の底堅い消費をいかに取り組むことができるか。これまで手薄だった富裕層をターゲットにしたサービスに、活路を見出す動きがますます加速していくだろう。(ZUU online 編集部)