がんと診断された時、病気による身体へのダメージに加えて、仕事を休まなければならなくなる経済的なダメージも大きい。最悪の場合には退職ということもあり得るだろう。精神的なダメージは大きいが、経済的な負担を減らすために冷静な行動が求められる。そこで、今回はがんに罹患した場合に利用できる各種制度について紹介する。
医療費負担を大幅に減らす高額療養費制度
高額療養費制度とは、月間の医療費が高額になった場合に、一定の自己負担額を超えた分について健康保険組合等から払い戻される制度だ。一定の自己負担額は、年齢や所得によって異なる。
注)「区分ア」または「区分イ」に該当する場合、市区町村民税が非課税であっても、標準報酬月額での「区分ア」または「区分イ」の該当となります。
※1被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合
※2被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合
注)現役並み所得者に該当する場合は、市区町村民税が非課税等であっても現役並み所得者となる
例えば、「70歳未満の区分」で所得水準が「報酬月額27万円以上~51万5,000円未満」の場合、1か月負担の上限額は、「8万100円+ (総医療費 − 26万7,000円) ×1%」となっている。たとえば、医療費が月額100万円掛かったとすると、健康保険の利用により自己負担分は3割なので30万円になる。これが、高額療養費制度を利用すると、月負担の上限額が「8万100円+ (100万円 − 26万7,000円) × 1% = 8万7,430円」となるため負担を大きく減らすことができる。
高額療養費制度に関連してもうひとつ。自己負担額を超えた分が払い戻されるとはいえ、還付金が手元に戻るのは申請してからおおむね3か月後のため、一時的な支払い負担は大きい。そのような時、70歳未満の人は、各健康保険の窓口に事前に申請をすることで「限度額適用認定証」を発行してもらうことができる。これを提示することで、窓口での医療費負担が、高額療養費制度の自己負担限度額までとなる。なお、70歳以上の人は、75歳 (後期高齢者医療制度に移行する) までの間、協会けんぽから「健康保険高齢受給者証」が交付される。これと健康保険証をあわせて提示することで、高額療養費制度が適用される。
傷病手当金で月給の3分の2を確保
傷病手当金は、病気やけがで会社を休み、十分な報酬が受けられない場合に4日目から支給される。支給金額は「支給開始日の前12か月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」になる。要は、月給の3分の2がもらえると考えればよい。注意すべきなのは、給与が普通に支払われている場合や、障害年金を受け取っているなどの場合には支給されないということだ。また、支給期間は1年6か月で、受給するには健康保険組合等に申請が必要になる。
離職に追い込まれた時に役立つ雇用保険の基本手当
闘病が長く続く場合、離職に追い込まれることもある。そのようなときに助かるのが、一般的に失業保険と呼ばれている「雇用保険の基本手当」だ。基本手当の支給日額は年齢区分ごとにその上限額が定められているが、基本的に離職日直前6か月間の賃金の合計を180で割って算出した金額のおよそ50~80%だ。支給期間は、離職の日における年齢や雇用保険の被保険者だった期間、及び離職の理由等により、90~360日の範囲で決定される。がんによる離職で注意しなければならないのは、基本手当を受ける条件として仕事ができる状態にあるということだ。体調が回復せず働ける状況にないのならば求職活動することはできず、基本手当を受け取ることもできない。
人工肛門などになったら障害年金申請を
障害年金は、病気やケガで、法令によって定められた障害等級表 (1級・2級) による障害の状態になった時に支給される年金だ。障害等級2級の場合、障害基礎年金の年金額は月額6万5,000円になる。18歳未満の子がいる場合は、子の人数によって加算が行われる。
受給要件は、障害の程度の他に初診日の前日において、公的年金加入期間の2/3以上の期間について保険料が納付または免除されていることと、65歳未満で初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないことだ。また、厚生年金に加入している場合には、障害基礎年金に加えて障害厚生年金も支給される。
なお、がんの場合、人工肛門など身体の機能が変わった場合はもちろんのこと、抗がん剤の副作用による体調不良などの場合でも、現在の仕事や生活に支障をきたすことが認められれば障害年金が支給される可能性はあるので、支障について診断書に記入してもらうなどした方がよい。
税金の支払額を減らせる医療費控除
最後に給付ではないが、税負担を減らす方法として医療費控除制度がある。医療費控除は、10万円以上医療費を支払った場合に一定の所得控除が受けられるというものだ。医療費控除の対象となるのは「実際に支払った医療費 − 保険金等 − 10万円」だ。
このように、がんになった場合には、いろいろな制度が活用できる。ただし、各種制度は申請しないと受給できないというのがほとんどのため、いざというとき行動に移せるように知識として身につけておきたい。(提供: 大和ネクスト銀行 )
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