完結出生児数は語る-「妻は2人産んでいる」

日本というエリアにおける女性の出生力は1993年以降、恒常的に1.50をきっており、日本の女性は長期に約1名しか産まなくなっている。

しかしこの分母には未婚女性も既婚女性も含まれている。そのうちの既婚女性の出生力は一体どのように推移しているのであろうか。これを見るために用いる指標が、完結出生児数である。

完結出生児数は、結婚してからの経過期間が15年から19年の夫婦の平均子ども数として計算される。なぜ15年から19年かというと、その期間を過ぎた夫婦は統計的にほぼ子どもを授かっていないからである。つまり、完結出生児数は「夫婦の最終的な平均出生子ども数」とみなさていれる。

日本の完結出生児数は戦後1952年の3.50から急激に低下をした。しかし、1972年の2.20以降、最新調査の2015年1.94まで、徐々に下降しているもののおよそ2で推移している(図表1)。

意外なことかもしれないが、この40年以上、日本の夫婦(既婚女性)から生まれる子どもは2人であり、大きな低下を見せていないのである。

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大きく低下した「カップリング力」

1970年代以降、少なくとも2002年までは妻の2人までの出生力は維持されており、表の赤線の出生率の低下は、母数である未婚女性の増加(カップリング力の低下)が大きく影響しているだろうことが図表1からみてとれる。

昨年あたりから政策的に「ライフデザイン教育」が学校教育分野で登場した。これは次世代育成の3ステップの「妊娠・出産力」に関わる正確な知識の普及も含まれている。

男女がみずから、子をもうけることの有無、タイミングを希望の叶う形でデザインするには、まず何より正確な生物学的知識をもつことが不可欠である。

女子学生が「女性活躍時代だし、資格もとってキャリアをつんで40歳になったら子どもをつくろうかな」などと口にするケースもいまだに見られる日本は、他の先進国と比較するとあまり褒められるレベルではないのである。不正確な妊娠・出産力に関する知識によって、カップリングを含む出産育児の夢の実現が阻まれる可能性は決して小さくはない。

今年10月から12月にかけて、長時間労働などの反ワークライフバランスの温床となりがちな企業・団体組織に、「カップリング力」を阻害しないような環境整備を期待する政府の検討会も開催された(*1)。国としてこのステップに着眼したことは、やっとではあるにしても評価したい。

あくまでも個人のライフデザインの応援の枠を踏み外さず、しかし決してスルーされることなく、学生から老年者にいたるまで新たな3ステップ議論が少子化対策として社会でかわされることを切望してやまない。

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(*1)結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会の開催について
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/kigyo/index.html
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天野馨南子(あまのかなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員

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