民事再生,法的整理,タカタ
エアバッグのデモ(写真= Sony Ho /Shutterstock.com)

エアバッグ製造の大手タカタ <7312> の製品が破裂して米国だけで11件の死亡事故を引き起こした問題は、今年1月に司法省と10億ドル(約1150億円)の和解金を払うことで合意した。各自動車メーカーが行っているエアバッグのリコールの費用は各メーカーが肩代わりしている。各社が一斉にタカタへ費用請求を行うと、タカタは債務超過する可能性が高くなる。

今後のタカタの財務健全化、経営再建に向け、外部専門家委員会が主体となり、再生手法の検討やスポンサーの選定作業を継続しているが、企業の再生手法では、法的整理と私的整理で対立があり、タカタの場合もスポンサーと手法をめぐって対立が起きている。

手続きの公平性などから法的整理求めるスポンサー企業

企業の再生手法では、一般的に法的整理と私的整理に分かれる。法的整理は裁判所が関与する厳格な法的手続きで、会社更生法や民事再生法を適用した上で債権カットや再生計画を遂行する。一方私的整理は、当事者間(タカタの場合では、自動車メーカー、銀行、取引先など)の協議によって債務整理や再生計画策定を行うことをいう。

タカタの場合、現在スポンサー候補とされる企業側は、手続きの公平性や透明性の観点から、裁判所が介在する法的整理を求めている。これはリコール費用だけでなく今後発生する集団訴訟費用も踏まえ、法的に拘束力を持つ方法が望ましいからだ。

一方タカタ側としては、法的整理が原則的に上場廃止や、既存株主の権利消滅などが多く、また倒産というネガティブイメージにより今後の取引に支障が出ることを懸念し、私的整理による再生手法の方向性を検討している。

法的整理であっても経営の自由度を設けた「民事再生」の現状

上述のとおり、再生手法には法的と私的で大きく2つに分かれるが、タカタ側の考えのように法的整理には世間や取引先からの信用低下の懸念は存在する。

しかし法的整理でも、民事再生では会社更生と違い、現経営陣が経営を継続できるなどの利点を活かし、再生手法として使用し、再生につなげた例もある。一方、民事再生を申請するも、結局収益は改善せず、会社の清算へと向かうケースも多い。

東京商工リサーチは2000年度から2015年度までに負債1000万円以上を抱え民事再生法を申請した9406件(法人、個人企業含む)を調査している(「民事再生法」適用会社の追跡調査)。このうち、進捗が確認できた法人7341社を対象に、主に(1)経過日数(2)事業継続の有無を追跡調査している。

(1)経過日数では、民事再生法の「開始決定から認可決定」の期間は2000年の231.1日から15年度は196.4日と短かくなっている。手続きの迅速化が図られたということだ。

(2)事業継続の有無については、民事再生法の適用を申請した7341社のうち、70.9%は申請後に吸収合併や特別清算などで消滅し、生存企業は29.1%とおよそ3割しか存続していないという厳しい現実が明らかになった。消滅した企業のうち、約6割は申請から3年を経過して裁判所の関与から離れる手続き「終結」の後に消滅している。つまり裁判所の関与が無くなった後に再度経営危機を迎えた企業が非常に多いということである。

調査では民事再生法の申請件数は、2015年で同法施行後で最少件数を記録しているという。

経営悪化の原因次第で再生手法は変わる

なぜ民事再生法の利用が減少しているのだろうか。背景として、全体的に倒産件数が減少していることもあるが、事業再生ADRや地域経済活性化支援機構、中小企業再生支援協議会など、法的整理と私的整理の中間のような再生手法が増加したことや、デューデリジェンス(資産査定)や弁護士費用負担大などが挙げられている。

また今回の調査で、民事再生法を申請しても生存できる企業が3割に満たないことは非常に重要なポイントである。

事業再生を促す仕組みや手立てがあったとしても、経営悪化の真の原因が何かを追求しそれを取り除くことをしない限り再生は難しいということだ。悪化の原因が外的な要因によるものなら、経営者の実行力と企業の強みを活かした思い切った事業転換で再生は十分に可能だ。

逆に内的な原因――たとえば放漫な経営や不正会計、法令違反、顧客軽視の体質など――による経営悪化ならば、よほど思い切った自己改革と真剣な取り組みがない限り、現経営者の延命につながるだけだ。

これは中小企業だけではなく、タカタや現在重大な経営の危機を迎えている東芝などの大企業も同じだ。「なぜ経営悪化に至ったのか」という点を検証し、その内的な根本原因を取り除く再生手法の検討が求められる。(ZUU online 編集部)