低価格ラーメン・中華料理チェーンの「熱烈中華食堂 日高屋」を展開するハイデイ日高 <7611> が、2016年度の売上高において、ライバルの幸楽苑ホールディングス <7554> を初めて上回った。
この逆転劇はハイデイ日高が1999年に株式を公開して以来、初のことだ。日高屋は、マクドナルドと吉野家の近くに店を出すという出店戦略で知られているが、改めて、快進撃の理由に迫ってみたい。
「日高屋 vs. 幸楽苑」 データ比較
ハイデイ日高は2017年3月6日、通期の全店売上高は前期比4.7%増と発表。2017年2月期の単独売上高は385億円程度になったとみられる。一方、幸楽苑ホールディングスはといえば、2017年3月期の連結売上高で同2%減の375億円を見込んでいる。2016年4月~2017年2月における累計の直営店全店売上高は1.8%減だった。
日高屋は2002年、東京・新宿に1号店をオープン。2004年には営業利益の伸び率は前期比64.8%と急成長、売上高も100億円を突破した。2006年には一部上場、2009年には売上高200億円に到達。外食チェーンとしての一定のポジションを築き、牛丼やハンバーガーなど大手が業績不振に悩むなか、好調な売り上げをキープし続けてきた。
その特徴は、なんといっても「気軽さと安さ」だ。ベーシックメニューの中華そばは390円、餃子は210円、ジョッキ生ビールも310円(いずれも税込み)で、この3つを飲み食いしても1000円札1枚でおつりがくる。このほか、枝豆や冷や奴、皮付きポテトフライなどのおつまみも200円以下、定食でも700円を超えるものはなく、懐事情は厳しくとも勤め帰りに軽く一杯やりたい「ちょい飲み」のサラリーマン層にとって、気軽に立ち寄ることのできる存在だ。
店を出す立地にもこだわりがある。知られるようになってきた同社の出店戦略に、マクドナルドや吉野家の近くに出す」というものがある。この戦略は、強敵を集客に利用する「コバンザメ戦略」とも呼ばれてきた。両社の固定客でも、毎日毎食ハンバーガーや牛丼を食べるというわけにはいかないだろうことから、日高屋に寄ってくれることが期待できるというものだ。
マクドナルド、吉野家、どちらも店舗の多くは、駅前や商店街の目抜き通り、すなわち一等地にある。家賃は高いが、駅の乗降客数や人の流れ、家賃相場など、店の採算に関わる最も重要な商圏調査は、その2社が大きなコストをかけておこなっている。
両社の出店はそのうえでのことなので、日高屋がその近くに出店して価格と営業時間で張り合えば、十分に勝負できると踏んだということだ。一等地は競合他社がひしめき、競争も激しいが、それは人出が多いことにほかならない。「立ち寄りやすさ」や「飽きのこない味」といった日高屋のこだわりが多数のニーズにはまれば、お客をゴッソリいただけるということでもある。
日高屋は公式サイトで物件情報を募集している。例えば、出店地域として現在は、埼玉県および東京都のJR主要駅が中心だが、今後は神奈川県、千葉県および東京都を重点的に出店していく計画であること、また、ターゲットはJR・私鉄とも乗降客4万人以上の各駅だと、エリアを絞っていることを明らかにしている。
このほか、低価格を実現するため、自社工場を使ったセントラルキッチン方式を導入してコストの低減を図り、ハンバーガーや牛丼のように、どの店でも一定の味を保つことに成功している。
値上げと立地拡大の幸楽苑 異物混入が痛手に
幸楽苑は2006年にベーシックメニューの中華そばを、390円から290円に値下げ(いずれも税別)した。そのデフレの世相を反映した価格設定が話題となり、来客数と売り上げは伸びた。2012年には国内500店舗を達成。しかし、国内有数のチェーン展開となったものの、客単価が下がってしまったことや、原材料費の高騰に伴い、2015年に200円以上高い500円台の新ラーメンを主力商品として、これまでの低価格路線から決別した。
幸楽苑ホールディングスは公式サイトで、社長のメッセージとして「らーめんを主力商品として社会のインフラ企業になる」と表明している。2018年3月期には、四国エリアへの進出も始めるとし、出店用地の情報も募集。
主要幹線道路や生活道路沿い、ショッピングセンター内、駅前と繁華街のビルなどへの出店を明示しているが、日高屋が駅前・繁華街に絞っているのに対し、「インフラ」を自任するだけにもっと幅広く考えているようだ。このあたりも、売り上げに影響しているのかもしれない。
これに加え、痛かったのが2016年10月に発覚した異物混入問題だ。この事件はその前月に、パート従業員の女性がチャーシューの仕込み作業をしている際に左手親指の一部を誤って切断し、それがチャーシューの保管容器に約3日間入ったままになっていたことによるものと発表された。
保健所への報告が遅れたこと、発覚当初に事実と異なる説明をしたことのほか、問題の特異性から報道が過熱し、消費者の反応も激しかった。このため同年10~12月は売上高や客数がガクンと落ち込み、年間の売上高を押し下げることになった。
こうしたことから、両社の売り上げは逆転したわけだ。さて、今後は両社の戦略の違いが売り上げにどう反映されていくのか、注目したい。(フリーライター 飛鳥一咲)