2017年は10倍株(テンバガー)を発掘するチャンス――。そう語るのは、複眼経済観測所・代表取締役 所長の渡部清二氏だ。

「四季報は読み物」と語る同氏は過去20年間、78冊の四季報を読破し続けてきた。そんな四季報マニアは2017年の日本株相場をどう見ているのか、その相場観を踏まえた日本株投資のポイントを伺った。(インタビューは2017年3月6日に実施されました。聞き手:押田裕太)

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17年3つのポイント「米政策、欧州選挙、相場の60年サイクル」

――16年11月にトランプ氏の大統領就任が決定してから、トランプラリーで右肩上がりの相場が続いています。17年の日本株相場をどのように見ていますか。

今年の日本株市場を考える上で「1. トランプ大統領の政策、2. 欧州の選挙動向、3. 日本株の相場格言」がポイントだと考えています。

まず米国の政策的な話からすると、トランプ氏は財政出動かつ減税と言っていますが、財源に関する議論はどこにも出ていません。財政赤字が60兆〜70兆円もある中で、財源論が全然語られてないということは、トランプ氏が考える政策は、ドル高・金利高により世界中からお金を集めないと成り立たないというのが本質論でしょう。

そう考えると、為替はドル高、金利は上昇と考えられます。今は、簡単にいうと「期待」で上昇しているだけです。ハシゴが外れた瞬間に相場が崩れる可能性が高いと考えています。

次に世界的な選挙ラッシュです。オランダやフランス、イタリア、まだ未定の韓国やドイツなどには注目すべきでしょう。(※オランダの総選挙は3月15日に実施、韓国は総選挙日が5月9日に確定)欧州選挙は基本的には、移民排斥運動に近い保守的な極右政党が目立つと考えています。その政権がどうなるか分かりませんが、そのようなリスクが非常に高まっています。

日本株は2017年後半に下落

3つ目の注目ポイントが、日本の相場格言です。2017年は「申酉騒ぐ」で乱高下が予想される年ですが、さらに注目しているのが相場の60年サイクルです。

干支は正確には「十干十二支(じっかんじゅうにし)」と呼び、2017年の干支は「丁酉(ひのと・とり)」となります。相場格言によれば、丁酉は「寄付高し、昼より安し」となっています。年初は株高がすすみ、後半にかけて株価が安くなることを示唆しているもので、今まさにそういう相場になっています。

日本の株式相場の歴史をデータでみてみましょう。明治11年から続く株式市場は、戦前が東京株式取引所(通称:東株・とうかぶ)、戦後が日経平均株価と呼ばれています。この期間の勝率と戦後の勝率(年間通して上がれば勝ち、下がれば負け)、戦後の騰落平均(上がった、下がったのパーセント)、これを「西暦下一桁」と「干支」で分けてデータをとっています。

データを参考にすると、西暦下一桁が「7」の年は戦後の勝率が最も悪く16.7%、1勝5敗となっています。その1勝も1987年のブラックマンデーがあった年で、これにどちらかというと似ています。前半は強いけど後半大きく下落する点が似ており、騰落率平均でいくとマイナス7.5%と戦後では最も悪い数字です。

一方、干支で見ると、酉年はパフォーマンスが割とよく、東株も含めた全勝率は7勝3敗。うち2敗は丁酉です。年間騰落率を60年前、120年前それぞれ見ると、120年前はマイナス8.2%、60年前はマイナス13.6%となっています。酉年は全体的にはいいが、60年サイクルでいう丁酉の年は下がる。相場格言をデータで振り返ると、2017年は上がりづらい相場だといえるのではないでしょうか。

――ハネムーン期間(米大統領就任から100日)は相場が下がりづらいと言われています。トランプ氏への期待はいつ剥がれると考えていますか。

明確な時期は断言できませんが、おそらく5月頃だと見ています。これは日本の十干十二支が、ちょうど60年前も120年前も4月か5月にピークを付けているからです。選挙もちょうど3月頃から始まっていきますので、期待で膨らんだ分が剥がれ落ちていくだろうと考えています。

「2017年はテンバガー発掘のチャンス」そのワケとは?

――それでは2017年は買わないで待つほうがよいということでしょうか?

そうでもありません。2017年はテンバガー狙いの年だと考えています。2017年は、大型株が下落し、中小型株が上昇する「二極化相場」になると考えています。ここからテンバガーの話につながっていきます。

四季報を20年間、全銘柄を読破してきた中での肌感覚から、1998年と2016年の相場が非常にそっくりだということに気づきました。

――どのような点が似ているのでしょうか?

類似点は、(1)世間に広がる漠然とした不安感、(2)史上最低金利、(3)デフレへの逆戻り、(4)二極化相場、の4つです。

1つ目は、1998年当時、長期信用銀行や日本債券信用銀行などの金融機関が経営破綻し、日本社会に漠然とした不安が広がっていた点です。振り返ると2016年もそんな状況でした。年末に話題になったドイツ銀行やイタリア銀行の信用不安が似ていると見ています。

2つ目に、史上最低金利をつけた点が全く一緒です。当時、日本の長期金利が、約400年ぶりの史上最低金利を付けました。イタリア・ジェノバの国債が1619年に付けた1.125%(国庫貸付金利)を下回ったのです。これは、マイナス金利を実施した2016年にも同じことが言えるのではないでしょうか。

その裏側にあるのが3つ目のデフレです。戦後初めて消費者物価指数が前年比でマイナスに突入した1998年、当時まだデフレという言葉を皆分かっておらず、デフレの説明を日経新聞も結構していました。内閣府資料によるとデフレは、「物価が持続的に下落する状態のこと」であり、おおむね2年程度を目安に判断するとあり、その中に明確に消費者物価がマイナスに突入するというチャートがつけられています。2016年も同じくまたデフレに逆戻りということで消費者物価が再びマイナスに転じました。

デフレ企業の代表格ということで、マクドナルドの状況が当時と似ています。1998年当時は65円バーガーが出されていましたが、同様に2016年にも400円のバリューランチを出しており、ランチ戦争といったコトバを目にしました。

そして一番の類似点が、4つ目の「二極化相場」です。実は1998年は、バブル崩壊後に日経平均が最安値をつける年です。1万2787円の最安値をつける中、ソフトバンクはじめ、当時の中小型株が顕著に上昇していった年で、完全な二極化相場といえるでしょう。

2016年は日経平均がかろうじてプラスに転じましたが、年間を通じて見ると、どちらかというと下げ気味の中で、マザーズ指数だけは強烈に上がっています。一時期のマザーズ指数は約4割上昇する一方で、日経平均は約20%下落する二極化を見せました。

1998年、ユニクロに投資していれば約236倍に!

――テンバガーを達成しているのはどのような銘柄ですか?

10倍と言わず、100倍超になった銘柄を紹介しましょう。まず、ユニクロのファーストリテイリング <9983> が上昇率トップで約236倍となっています(1998年安値から2015年7月高値)。

似たような話で、インターネットサービスのヤフー <4689> が100倍超、家具のニトリ <9843> が約93倍、精密減速機のハーモニックドライブ <6324> が約76倍、医療機器メーカーのシスメックス <6869> が約68倍。すき家のゼンショーホールディングス <7550> が約60倍といった具合です。

2016年と1998年の共通点として、企業業績が「減収減益」という共通点があります。つまり、売上も利益も伸びない。そのような中で、中小型だけは売上も利益も伸ばしています。

この背景には、日本を含めた世界の年金ファンド勢が、少しでもパフォーマンス上げるために大型株を売却し、中小型株に資金をシフトさせたことがあるのではないでしょうか。

この間、日経平均はわずか約1.6倍しか上昇していません。こういった銘柄から共通点を見出していくのがポイントです。

後編『 「テンバガー(10倍株)投資」4つのポイント 注目の2銘柄は…… 』に続く(2017年3月22日公開予定)

渡部 清二 複眼経済観測所 代表取締役所長
野村證券に23年間在籍。中堅企業、個人投資家向けの資産コンサルティング、 世界の運用会社向けの日本株セールスに携わる。2014年4月四季リサーチ株式会社設立。2016年1月複眼経済観測所株式会社設立、代表取締役所長。 20年間、78冊の四季報を読破した知見をもとに、世界で初めて、四季報を活用した企業分析をビジネス化している。東洋経済新報社の「四季報オンライン」のコラム執筆やTOKYO MX「ストックボイス」の出演などメディア出演も多数。