2017年は10倍株(テンバガー)を発掘するチャンス――。そう語るのは、複眼経済観測所・代表取締役 所長の渡部清二氏だ。

「四季報は読み物」と語る同氏は、過去20年間に四季報を読破し続けてきた。そんな四季報マニアは2017年の日本株相場をどう見ているのか、その相場観を踏まえた日本株投資のポイントを伺った。(インタビューは2017年3月6日に実施されました。聞き手:押田裕太)

【前編はこちら】
株価236倍? 2017年は「テンバガー(10倍株)」発掘のチャンス

日経平均だけをみていては全くみえてこない世界

――2017年に注目すべきは中小型ということで、どのような点に意識してテンバガーを探せばよいでしょうか。

2017年のテンバガー探しのポイントとして、次の4つを挙げたいと思います。

(1)上場してから4年以内
(2)時価総額300億円以下
(3)オーナー企業かつ創業者が筆頭株主
(4)過去4期の売上高成長率が2倍(年間約20%成長)

まずは上場してから間もない企業。1998年当時、ファーストリテイリングは1994年7月に上場したので約4年、ソフトバンクも1994年で約4年です。

続いてこれは当たり前ですが、時価総額が小さいこと。時価総額が小さくないと何十倍にはなれません。ファーストリテイリングの当時の時価総額は約275億円でした。そして、株主欄を見て社長が筆頭株主かどうか、創業社長かどうかも重要なポイントです。

何よりも一番大事なのは、急成長しているかどうかです。急成長は売上の伸び、つまり「増収率」で確認します。肌感覚ですが過去4年で売上2倍、年率換算で約20%以上の増収を達成している企業です。ソニーは当時、増収率40%を続ける本当の急成長企業でした。

直近約1年だけでも、最低4銘柄がテンバガーを達成しています。安値、高値で見ると、例えばファッションのTOKYO BASE <3415> は、2016年2月15日に安値322円(修正後)をつけましたが、2017年2月7日には4010円を付け、約12.5倍に上昇しています。

SNSマーケティングに特化したアライドアーキテクツ <6081> は、2016年2月11日に390円を付けますが、2017年2月15日には4480円と、約11.5倍になっています。同じように、マンションデベロッパーのアスコット <3264> が約10.6倍、パチンコ向けにコンテンツを提供するNuts <7612> が約10倍となっています。安値高値でみた1年間のトータルリターンが3.5倍以上になった銘柄は約40銘柄もあります。4つのポイントのうち、時価総額を400億円にすると約90銘柄が抽出できます。

このように日経平均だけをみていては全くみえてこない世界があります。

注目は「ウィルグループ」と「TOKYO BASE」

――投資タイミングについてはいかがでしょうか?

その銘柄が割安かどうかを見ていく必要があります。その際に使用するのが、「PSR(株価売上高倍率)」で、時価総額を売上で割った指標になります。

テンバガー投資をする上で1番の注目ポイントは成長性です。成長性は増収率で判断しますから、売上高で割安度を判断していくという理屈です。PSRが、3倍前後ぐらいまでだったら、割安として判断してよいと考えています。

――渡部さんが注目しているテンバガー候補を教えていただけないでしょうか。

日本社会の大きなテーマとして「働き方改革」が意識されており、人に関わる銘柄に注目しています。

前述のPSRで割安度を算出すると、決まって毎回トップに出てくるのがウィルグループ <6089> です。断トツで割安として出てきます。人材派遣業の同社が、算出した割安リストのトップにあがってくる面白さを感じています。

もうひとつ注目しているのがエクストリーム <6033> です。見た目はゲーム会社ですが、実態は人材を育てて派遣しており、人材関連だと捉えてます。イメージと実際の業務が違う部分にギャップがあって面白いですね。

シニア人材のキャリア <6198> にも注目しています。「シニアの活躍」も働き方改革の大きなテーマです。シニア人材は上場会社ではオンリーワンなので、そういうオンリーワンといった点も投資する際には判断に入れます。

他に目を付けているテーマが、「ジャポニズムの再来」です。世界的な日本ブームがスタートしています。

過去にも世界的に日本が注目された時期が1860年から約50年続きましたが、私が考えるストーリーは、3年、5年、10年といった短いブームではなく、50年単位の大きなメガトレンドの到来です。

このテーマの中心企業として注目しているのが、前述のTOKYO BASEです。メイド・イン・ジャパンにこだわったセレクトショップ、ファッション分野になります。すでにテンバガーを達成していますが、さらに株価が10倍上昇すると考えています。

実は同社の社長に直接話を聞いたことがあり、ストーリーが非常に綺麗です。今はインバウンドも良いですが、アウトバウンドと私が呼んでいる世間一般でいう越境ECの分野です。世界に発信していこうという社長の想いに非常に大きな投資チャンスがありそうです。

テンバガーを狙うには「たくさん持つ」がポイント

――投資家の方に向けて、アドバイスをお願いします。

名著『ピーター・リンチの株で勝つ』を実践していくことが成功の秘訣だと考えています。

ピーター・リンチ氏は、フィデリティのマゼランファンドを1990年までの13年間で、28倍まで上昇させた伝説的なファンドマネージャーです。この間のNYダウは、わずか約3倍の上昇にとどまっています。

リンチ氏に学ぶテンバガー投資のポイントは、「銘柄は、たくさん持つ」です。当然、ただ銘柄数を増やせばいいということではなく、「分析しなさい。分析してストーリーを考えなさい。ストーリーを子どもにも分かりやすく伝えられるぐらいまで理解しなさい。そしたら買ってもいい。そういう自信があるなら、銘柄数はいくらでもいい」と述べています。

実際に彼のファンドは、1400もの銘柄に投資していたとのことで、今の感覚でいうと驚きですよね。

――投資の神様・バフェット氏とは逆に、銘柄数は増やしても良いと。

逆ですね。極端にいえばテンバガー候補の約90銘柄をパッケージで買いにいきます。ただし個人では難しいため、最低20銘柄は持ちましょう。

そもそもテンバガーという言葉自体、ピーター・リンチ氏が広めたコトバです。彼は、「10銘柄のうち1銘柄でもテンバガーが出れば、他が下がってもカバーしてくれる。だからテンバガーを探せ」というのがもともとの『株で勝つ』の中身です。

複数の銘柄を保有する分散投資でリスクの軽減効果が期待できます。相場全体が下落しても、自分が保有している資産全体の評価額は自体は下がりにくくなります。

――さいごに、売り時の判断についてはいかがでしょうか。

売り時は非常に大事です。株価が上がったから売る、下がったから売るというのは違います。最初に自分が立てたストーリーが崩れない限りは持ち続けるべきだと考えています。

例えば、売上が伸びるというストーリーのもとで銘柄を購入したが増収率に鈍化の兆しが見える、もしくはストーリーが崩れたときには売るべきだと考えています。年間の業績進捗率がどうのこうのとかは雑音であって、増収率という形で結果が出ている間は保有していくという考え方です。三四半期毎の決算発表で自分の保有銘柄の状況を確認することが大事です。

渡部 清二 複眼経済観測所 代表取締役所長
野村證券に23年間在籍。中堅企業、個人投資家向けの資産コンサルティング、 世界の運用会社向けの日本株セールスに携わる。2014年4月四季リサーチ株式会社設立。2016年1月複眼経済観測所株式会社設立、代表取締役所長。 20年間、78冊の四季報を読破した知見をもとに、世界で初めて、四季報を活用した企業分析をビジネス化している。東洋経済新報社の「四季報オンライン」のコラム執筆やTOKYO MX「ストックボイス」の出演などメディア出演も多数。