「今」に集中すれば、平常心でいられる

漠然とした不安、イライラ、思うようにならないことに対する焦り……こうした負の感情はなぜ生じ、どう向き合えば軽減できるのか。心理カウンセラーの石原加受子氏に聞いた。

石原加受子,不安を取り除く,欲求
(写真=The 21 online)

「ねばならない」が負の感情を生む

不安や焦り、なんとなくイライラ、どうしようもなく落ち込む……こうしたネガティブな感情は、なぜ生じるのでしょうか。全般的に言えるのは、「~しなければならない」という考え方に無意識に縛られている人が多いということです。

「~しなければならない」と言うときには、最初から目標となる基準があり、それを達成できなかった場合に「自分はダメだ」と感じます。すると「基準に合わせなければ」と必死になって焦ったり、不安になったり、落ち込んだりするのです。

なぜ、「~しなければならない」という考え方に縛られてしまうのでしょうか。それは、私たちは幼い頃から「人の期待に応えなければならない」「〇〇を達成しなければならない」と言われて教育されてきたからです。

たとえば、人が最初に所属する社会的コミュニティーである幼稚園や保育所では、遊ぶ時間も食事の時間も、お昼寝の時間も全部決められています。ということは、みんなに合わせて同じことをしなければいけない。そしてそれに合わせられなければ、和を乱す自分勝手な子、となるわけです。家でも学校でも親や先生が「周りに合わせて行動しなさい」と言い続けるので、「合わせなければならない。期待に応えなければならない」と刷り込まれていき、大抵の人は、「~しなければならない」という規範に合わせて生きていくことになります。

辛いときほど「自分の欲求」優先でいい

とかく現代の日本では、周囲に合わせて「~しなければならない」という規範に縛られることが多いように思います。多くの人が負の感情を抱え込み、自分を責めてしまいがちな時代と言えるでしょう。

たとえば、上司に不当に怒鳴られても、「自分は怒鳴られて当たり前の人間だ」と自分を責める人がいるとします。そういう人はこれまで「社会のニーズに応えなければ」「会社に適応しなければ」という思考で生きてきたので、それができないと自分を責めてしまうのです。

そして、この場面では「上司が怒鳴っている」という状況から、即、「自分が上司の期待に応えられなかったから悪いのだ」と自動的に考えてしまい、どこが問題で怒られているかということについては考えが及ばないのです。

ではこのような負の感情が生じたとき、どのように対処すればいいのでしょうか。それは、自分の気持ちや欲求に立ち返ってみることです。

たとえば、一流企業に勤める会社員が、上司からパワハラを受けていてあまりにもつらいので、会社を辞めようかどうしようか悩んでいるとします。給料は転職すれば下がることが確実。損か得かで言えば、今の会社にいるほうが得です。人に相談すれば十中八九、「働き続けるべき」と言われるでしょう。

しかし、損か得かや他者の判断ではなく、自分の気持ちや欲求を基準にすれば、現状を変えたいと望んでいるわけです。そのために「今、どうすれば良いのか」と考えるべきなのです。

まずは、人事異動などでつらい要因(上司)を回避して働き続けるための方法を考える。手を尽くしても改善されないなら、やはり転職しようという結論になるかもしれません。

自分の欲求に従っていれば、徐々に「周囲に合わせなければ」という思考から解き放たれていきます。不安や焦りを感じたときは、まず、自分の心の声を聴いてみましょう。

ネガティブな感情とのつきあい方

(1)不安
ネガティブな未来ばかり思い描くのは「偏った見方」である

未来を否定的に予測することで、不安は生じます。たとえば、「会社が潰れたらどうしよう」「リストラにあったら……」「病気になって働けなくなったら……」と。まだ起きてもいないようなことをネガティブに想像して恐れている状態です。

未来へのイメージとして、このような見方は決して「公平」ではありません。未来は必ずしも、不安に駆られて想像したようなネガティブな方向に進むわけではありません。ポジティブに転がっていく可能性だって十分あるのです。にもかかわらず、多くの人が、否定的な思考で未来を考えるから、不安になるわけです。

悪いほうにばかり考える人は、何に対しても悪いほうに考えるクセを持っています。そういう人がポジティブな未来をイメージできるようにするにはどうすればいいでしょうか。

まずは、自分が公平な思考をしていないと気づくことです。未来を否定的に予測することは、非常に偏った思考なのだと認識しましょう。未来をイメージするときに、せめてネガティブな未来とポジティブな未来を同じくらいの割合で想像したっていいはずです。公平な考えじゃないと気づくだけで、不安な気持ちはかなり和らぎます。

(2)焦り
追い立てられているときこそいったん立ち止まろう

焦りとは、直近で「やらなければならないことがある状況」が一方にあり、それが「できていない状況」がもう一方にあるという状態のこと。頭の中ではこの二つの状況を比較しています。たとえば、「まだ仕事が残っている。でも眠くてできない」という状態。こうなると焦りが生じます。

焦っている状態は、今やっていることに集中していないことを意味します。「あれもしなきゃ、これもしなきゃ」と常に追い立てられている状況で、頭の中は今に集中できず未来へさまよっているのです。

そんなときこそ、いったん立ち止まって自分の欲求に耳を傾けて行動すれば、焦りは消えていきます。今やらなければならない仕事が山積みでも、眠くてどうにもならないという場合、自分の欲求に従って寝ればいいのです。

とはいえ、明日の朝まで寝ていていいと言っているわけではありません。10分間だけでもいいから横になればいいのです。すると頭がすっきりして、そこから仕事をやればものすごくはかどります。職場で寝ることができないならば、トイレに立ったり、歩いたり深呼吸をする。あるいは自分の椅子で5分間瞑想してみる。これだけでも休息となり、焦りが消えます。

(3)落ち込み
「今」に集中し、小さな安らぎや幸せを感じよう

人はどんなに疲れていようと、やらなければいけない仕事があれば頑張れてしまうものです。ただ、その頑張りの陰には「休みたい、眠りたい」という欲求を抑えているという現状があります。そして欲求を抑えて我慢に我慢を重ねた結果、限界点に達すると「落ち込み」がやってきます。

大抵の場合、「落ち込み」の状態になる、自分が我慢の限界点にきていることに気づきません。イメージで言うと、殴られても痛いと感じないので、何発でも殴られ続けるという感じです。そうして殴られ続け、100発目に殴られて顔が腫れてから「ああ、疲れていたんだ」と気づく。でもこれでは遅いのです。そこまで我慢を重ねると、うつ状態になるまで自分を追い込んでしまうことも少なくありません。

落ち込んだ状態の人は、「今」に焦点が当たっていません。感じる力が鈍っていて、1日中どんよりした気分に囚われているからです。今を感じる力を取り戻すには、1日のうち1秒でもいいから、今に集中し、小さな安らぎを得ることです。お茶を飲んだらほっとしたとか、お風呂に入ったらゆったりした気持ちになったとか、ご飯を食べたらおいしかったとか、そんな些細な瞬間で良いのです。

石原加受子(いしはら・かずこ)オールイズワン代表
心理カウンセラー。日本カウンセリング学会会員。日本学校メンタルヘルス学会会員。日本ヒーリングリラクセーション協会元理事。厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。「自分を愛し、自分を解放し、もっと楽に生きる」ことを目指す、「自分中心心理学」を提唱。セミナー、グループワーク、カウンセリングを28年以上続ける。著書に、『仕事も人間関係も「すべて面倒くさい」と思ったとき読む本』(KADOKAWA中経出版)など多数。(取材・構成:石井綾子)(『 The 21 online 』2017年3月号より)

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