相続時精算課税制度は得か損か
次は生前に一括贈与する際に有利な「相続時精算課税制度」です。結論から先に言いますが、恰も生前贈与を相続の如く取り扱う制度のため、長い目で見る場合、相続税と損得勘定が一緒です。2003年に「相続時精算課税制度」と言う制度が作られて10年の年月が経ちましたが、制度自体が複雑なため、あまり利用者がいない様です。
通常の贈与税と比べたメリットは、通常の贈与税は年間110万円の基礎控除しか受けられないが、当制度は最大2500万円の非課税枠が設けられている点、及び、通常の贈与税は最高税率55%の所、当制度は一律20%の税率が適用される点です。一方、通常の贈与税と比べたデメリットは、2500万円の枠が累積する点、元の通常の贈与税に戻れない点、贈与税としてのメリットがなく、ただ生きていても受けられる相続税と言う意味であって、純粋に贈与税として考える場合、やや損な制度になります。
生存中に多額の贈与を受ける様な場合、当制度が有効です。次章で詳しく説明しますが、住宅や教育資金に関する贈与は当制度とは別に非課税措置がありますから、それらと一緒に活用する方が良いでしょう。これらの非課税措置と合わせると最大5000万円の非課税枠が設けられるため、1億円~1億2000万円の財産をお子様2人に均等に別け様と思っている人にお勧めです。なお、当制度はお子様に対してのみ適用できます。配偶者に対しては適用できないため、年上女房の方がメリットを生かせるはずです。
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
大学の入学金や授業料等、教育資金に関する贈与には「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」と言う特例措置が設けられており、一般の贈与より有利な取り扱いが受けられます。第4章の「相続時精算課税制度」と同じく金額が累積されるものの、教育用途に特化する「教育資金口座」へ入金する場合、1500万円までの贈与が非課税になります。ただし、この口座から教育に全く必要ないモノを購入すると贈与税の対象になるため注意して下さい。ですから、教育資金口座を開設している証明、及び、教育用途に使用した証明が必要になります。なお、一浪時にお世話になる学校の授業料も教育資金として認められます(ただし500万円が上限)。当制度を適用するには一定の条件に合わせる必要がある上、制度上の手続きがやや複雑ですが、慣れている人に頼めば分かるはずです。当制度は子と孫に対して適用可能です。
また、同じ様な制度として「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」と言う住宅資金に関する贈与の特例措置も制度化しており、一定の条件の住宅資金に関して、1000万円が非課税になります。その条件は床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下、築20年または25年以内、床面積の2分の1以上に相当する部分が住宅となっている等です。当制度はお子様に対してのみ適用できます。前章の「相続時精算課税制度」や前述の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」とは別の制度のため、一緒に併用することも可能です。
死亡前から少しずつ相続していこう
結論から言えば、相続時精算課税制度を利用しない場合(「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」は利用しても良い)、相続時の一括相続ではなく、毎年110万円の非課税枠を使用して少しずつ相続する方が得です。この方法は贈与財産が多くなるほど長い年月が必要になりますが、多少の贈与税が発生しても構わなければ毎年310万円、510万円、710万円ずつ贈与するのも良いでしょう。毎年710万円ずつ贈与する場合に発生する贈与税は年間90万円です。この金額は贈与先1人当たりの金額のため、2人のお子様に対して贈与する場合、2倍の金額を贈与することが可能です。年間どれだけ贈与するのが良いのかは残り寿命によりますが、簡単なプログラムが書ければ一番有利なパターンを計算できると思います。
贈与税は法改正毎に有利になっていく傾向がありますが、相続税は法改正毎に不利になっていく傾向があります。嘗ては平均寿命が短かったため、相続税を選ぶ人が多かった様ですが、平均寿命が延びた今、高齢者に富が集まってしまったため、その財産を活用するため、贈与税を有利にしていると言われます。老後資金に余裕がある場合、65歳ぐらいから少しずつ子や孫に渡してゆきましょう。相続税対策をしている以上、手元に3000万円は残っていると思いますから、老後の生活に不安になる必要はありません。(ZUU online 編集部)