2017年5月に発足した韓国の文在寅政権は、現在1時間当たり6470ウォンの最低賃金を2020年までに1万ウォン水準に引き上げると公約しており、フルタイム労働者の最低賃金は135万ウォンから209万ウォンに上昇する一方で、雇用機会の喪失が懸念されている。
男女の賃金格差はOECD加盟国で最大
韓国統計庁が2017年6月22日に発表した雇用別所得分布(2015年)によると、国民年金や職域年金、健康保険に加入している賃金労働者の月平均所得は329万ウォン(約32万円)。男性の月平均所得390万ウォンに対し、女性は236万ウォンで男性の6割にとどまった。PwCが行なった経済協力開発機構(OECD)加盟33カ国の正規雇用労働者の調査でも韓国の労働者の男女間賃金格差は36%で、調査対象国の平均(16%)を大幅に上回る最も高い水準となっている。
女性は飲食店や小売店の店員など低賃金労働者が多いが、女性の下で働くことを嫌う男性が多く、女性管理職が少ないことも主な要因と思われる。
労働者を所得順に並べた際に中心となる中位所得は241万ウォンだった。階層別では、150万ウォン以上~250万ウォン未満が最多の28.4%を占め、次いで、85万ウォン以上~150万ウォン未満が19.4%など、350万ウォン未満が全体の64.4%。
年齢層別では月平均所得は50代が386万ウォンで最も多く、次いで40代(383万ウォン)、30代(319万ウォン)と続いている。60歳以上は256万ウォンで、29歳以下の215万ウォンを上回っている。
最低賃金の引き上げで職を失う低賃金労働者
韓国中部大田市にあるアパートは、CCTVや遮断器などの無人警備システムを導入し、30人の警備員のうち14人を解雇する方針を打ち出した。自動化で年間3億ウォンの人件費を抑えられるという。
ソウル大学は冠岳キャンパス25棟の建物にCCTVとセンサーなどを含む無人統合警備システムを導入、警備員の新規採用を停止した。現職者は解雇しないが、50代の職員が多く、定年退職後に人員を補充せず自然減少を待つ方針だ。
フランチャイズ業界でも賃金上昇の懸念から無人システム化の導入が進んでいる。
弁当フランチャイズの「ハンソッ弁当」新村延世路店は無人販売機の導入で、ピーク時に4~5人で行なっていたカウンター業務を1~2人に減らした。マクドナルドは2016年に52店舗だった無人注文システムを2017年中に全店舗の56%に達する250店に導入する予定で、ロッテリアも2014年に導入した無人販売システムを2015年に78店、2016年には349店舗と大幅に拡大しており、2017年5月時点で全1350店舗の約30%に相当する555店舗以上で運営している。
大学生のアルバイト雇用が多いコンビニエンスストアも、セブンイレブンが蚕室ロッテワールドタワーの店舗に無人レジを設置し、イーマート系のウィズミーはセルフレジの試験導入をはじめた。
物価上昇の懸念
物価上昇も懸念されている。資金力がある企業は人力に頼っていた業務の無人化を進めるが、宿泊飲食や小規模小売業は人件費の上昇分を価格に転嫁せざるを得なくなるのだ。
最低賃金の引き上げで物価が上昇すると、大企業の正規職は物価上昇に相当する賃上げを要求し、大企業と中小企業の賃金格差の解消はつながらない。むしろ賃上げが期待できない中産階級の購買力が減るという指摘すらある。
政府は最低賃金の引き上げで大企業と中小企業の賃金格差を減らせると主張するが、最低賃金の引き上げは自動化を推進し、低賃金労働者の雇用が失われるという議論がたびたびなされており、雇用機会の喪失が現実味を帯びはじめている。(佐々木和義、韓国在住CFP)