ホテルや旅館などの宿泊客から徴収する宿泊税の導入を検討する動きが広がっている。宿泊税は東京都と大阪府が導入しているが、全国知事会の研究会は宿泊税法定化の検討を求める中間報告をまとめた。京都市は有識者会議から近く提出される答申を受け、導入に向けて動く見通しだ。
訪日外国人観光客が急増し、その対応で自治体に負担がかかっていることが理由の1つだが、人口減少と高齢化社会の進行で新たな財源を模索せざるを得ない自治体側の苦しい事情も見え隠れする。
全国知事会は法定化検討の中間報告を策定
全国知事会の研究会は委員長の石井隆一富山県知事、平井伸治鳥取県知事らが出席して東京都内で開かれ、中間報告をまとめた。7月末の全国知事会議に報告し、了承を得られれば、政府に提言する。
国土交通省のまとめでは、訪日外国人観光客は2012年に年間840万人だったが、2016年には2400万人を突破、過去最高を更新した。中国などアジアからの観光客増加が原因で、前年を上回ったのは5年連続。政府は東京五輪が開かれる2020年で年間4000万人の目標を掲げており、今後も訪日外国人観光客が増えるとみている。
中間報告は増加する外国人観光客への対応で自治体の財政負担が増大しているうえ、外国人観光客を地方へ引き込み、地方創生を図るには、環境整備やプロモーション活動で新たな財源が必要になると指摘した。
しかし、国内は少子化や若者の東京一極集中により、首都圏を除いて人口減少に入った。地方の自治体財政は危機的な状況。国の財政も悪化しているため、以前ほど手厚い支援を望めない。
そこで、研究会が打ち上げたのが宿泊税の法定化検討。宿泊税は欧米で広く導入されているほか、国内でも1950年度に都道府県税として遊興飲食税が導入され、料理飲食等消費税、特別地方消費税と名前を変えながら、2000年3月まで地方税法に定める法定税として宿泊行為などに課税されてきた経緯がある。
中間報告には、税収を一般財源として活用する案や自治体が課税の是非を選べるようにする選択肢を盛り込んだ。徴収方法も都道府県税として集めたうえで、一部を市町村に配分する案や、国税として国が徴収し、地方譲与税として自治体に交付する方法も検討対象としている。全国知事会調査第一部は「中長期的な課題として検討していきたい」と語った。
大阪府は7月から民泊施設も対象に
宿泊税は法定外目的税として東京都と大阪府が導入している。東京都は2002年度にスタートさせた。徴収対象はホテルや旅館の宿泊客で、税率は1人1泊1万円以上で100円、1万5000円以上で200円。全額を観光振興に充てている。
年間の税収額は当初、10億円台前半で推移していた。東日本大震災直後の2011年度は10億円を下回ったものの、すぐに持ち直して急増を続けている。
2014年度は16億円を超し、2015年度は20億円に達した。2016年度の額は確定していないが、東京都課税指導課は「訪日外国人観光客の増加で過去最高を更新するのは確実」とみている。
大阪府は2017年1月から導入した。税率は1人1泊1万円以上で100円、1万5000円以上で200円、2万円以上で300円。6月まではホテル、旅館の宿泊客に限定していたが、7月からは簡易宿所、国家戦略特区の民泊施設も対象に加えた。
大阪府は2016年度で1.7億円、2017年度以降で10億円前後の税収を予測している。大阪府徴税対策課は「2016年度の税収額確定はまだだが、想定を大きく外れることはなさそうだ」と述べた。
メリットとデメリットの慎重な検討が必要
税収自体は大都市圏の自治体からすれば、大した額ではないが、厳しい財政事情を反映し、導入の検討に動く自治体が少なくない。北海道もその1つで、高橋はるみ知事は6月の道議会一般質問に答え、「観光審議会に諮問し、協議を進めたい」と検討を加速させる考えを明らかにした。
道内では5月、ニセコ町と倶知安町がニセコ地域の観光PRに役立てる宿泊税の導入検討を明言した。道と両町がそろって導入すると、二重課税となるため、高橋知事は「全道的な見地から検討を進める」としている。
京都市では5月、新税導入を検討する有識者会議が宿泊税を導入すべきだとする答申案をまとめた。答申案では、修学旅行生以外の宿泊客が課税対象で、旅館業法上無許可の民泊施設も対象に加える方向。宿泊料金が一定以下なら課税しない免税点を設けず、高額料金の宿泊客には応分の負担を求める。
京都市の延べ宿泊客数は2015年で2100万人。東京都や大阪府と同じ水準の宿泊税を導入すれば、年間20億円程度の税収を見込める。京都市税制課は「最終答申は8月ごろの予定。それを受けて対応を進める」としている。
ただ、宿泊税の導入には観光への悪影響を懸念する声がある。京都市や北海道のようにブランド力が高い地域は影響が少ないだろうが、それほどブランド力の高くない地方都市だと観光客減少につながる可能性がある。
京都市では寺社への拝観料に上乗せして徴収する古都税を1985年に導入、仏教界と深刻な対立を招き、わずか3年で廃止した。宿泊税で同じ轍を踏まないためには、メリット、デメリットを慎重に考えるだけでなく、関係団体や業界と十分に協議する必要がありそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。